全長4800〜5000mmくらいのEセグサルーンは、立派になった大人のクルマという雰囲気が宿り、独特の世界観を放っている。スーパースポーツやラグジュアリーSUVはあまり好きではない。もっと普通な感じがいいという人には、やや古典的な「グランドサルーン」がいいと思う。一等地にある商業施設、敷居高めの温泉宿、ゴルフやマリンスポーツなどのレジャー、あらゆるシーンでどんなステージのパートナーでもエスコートできてしまう万能さ。そして普段のビジネスシーンでも貫禄十分。そんな価値あるクルマを10台ほどご紹介します。
1、MAZDA6
新車価格289万円〜 / 北米価格24、100米ドル
2012年に登場したMAZDA第六世代のフラッグシップサルーン。先代まではCDセグのスポーツサルーンだったが、ヤンチャな足回りを捨て去り、DEセグの大人のグランドサルーンへと進化(して北米&中国市場に挑んだ)。次期モデルはFR化が公表されており、1世代のみの限定設計になる模様。もっとスポーティに仕上げたい衝動を抑えて、北米市場で息長く販売できる普遍的なデザインを追求した結果なのだろうか、すでに9年目のロングサイクルに突入しても、「魅惑のグランドサルーン」の1番手に挙げられるほどデザインは鮮度を失っていない。さらに言えばスポーティさを抑えた結果、「静粛」「安全」「ラグジュアリー」などを際立たせることにマテリアルを割り振ることができたようで、「美しく走る」MAZDAの新しいブランドイメージを牽引する存在として長く君臨できている。この9年間には「予防安全装備」が雪だるま式に増えたが、スポーティを諦めたおかげで無難に過渡期に対応できたんじゃないだろうか。
2、ホンダ・アコード
新車価格465万円〜 / 北米価格24、020米ドル(非HV)
ホンダが世界に先駆けてアメリカで現地生産を始めた1982年から40年近くが経過したが、オハイオ州メアリーズビルで絶えず生産が続いているアコードは北米最強のグランドサルーンとして進化を続けた。2017年にアメリカ、カナダで販売が開始されたモデルが2020年になってやっと日本にやってきた。右ハンドル生産はタイに集約されたようでHVのみの逆輸入。北米価格との差が年々広がっていて、日本仕様と同じ2Lの2モーター式HV搭載グレードは北米では25,620米ドルで買える。アメリカ人がホンダ大好きなのも頷ける。北米にはアキュラ版のTLX(33,000米ドル〜)もあってこちらはホンダの真髄といえるVテックNAのV6と直4にSH-AWD&トルコン付き10速DCTが組み合わされる「アルティメット」仕様。デザインはベースのホンダ版の方が良いくらいだけど、全くもってアメリカ人が羨ましい限りだ。
3、メルセデスEクラス
新車価格734万円〜 / 北米価格54、050米ドル
名門ブランドの最量販モデルで、メルセデスといったらEクラス、にもかかわらず2000年以降に生産拠点が世界各地に広がったこともあってフルモデルチェンジが後回しにされるようになった。2016年に登場したW213型はSクラス、Cクラスに続いて最後に登場。アウディA4/A6に始まり、BMW5シリーズが追従した「日本式サスペンション」へのアップグレードがやっとEクラスでも行われ、同時に稀代の天才デザイナー・ゴードン=ワーグナーの渾身のグラマラスエクステリアも与えられ、先代(W212)とは全く別のクルマというくらいに進化した。さらにエンジン&ミッションの進化も進んでいる。日本市場の実質的なボトムグレードは220dの757万円。実際のディーラー商談ではオプション追加在庫車が一声で650万円となり、220dの新車相場は500万円台とのこと。しかも2016年製の中古車ならば220dだと320万円〜、200だと250万円〜から買える。在庫も豊富でこのクラスのサルーンでは日本メーカー車を含めてもナンバー1の台数。プリウスの価格帯に集約する!?
4、アウディA6
新車価格745万円 / 北米価格54、900米ドル
2019年にフルモデルチェンジが行われ5代目となったが、アウディA6といえば2001年にコンセプト(日本人デザイナー)が発表され世界に「21世紀のデザイン」の電撃ショックを与え、新興市場の中国を猛烈な勢いで制覇したミラクル・アウディを牽引した2004年発売の3代目が印象深い。そこからキープ・コンセプトなので、アウディA6はトヨタが「ゼロクラウン」など発売していた頃から現在のグラマラスなグランドサルーンデザインを志向していた。その後、日産(インフィニティ)、ジャガー、MAZDAなどがこのトレンドに乗ったサルーンデザインへと変更し、2010年以降にはメルセデス、レクサス、ホンダ、BMWなどもこの流れに準じている。ここに挙げた10台は全て3代目A6の影響下にある。とうとう和田智デザインは世界のグランドサルーンを変えてしまった。昨年に新型になりしばらくV6ガソリンのみの設定だったが、2020年4月にベースグレードとなる「40TDI」745万円が追加された。まだまだ購入のタイミングではないけど、Eクラス220dに準じて500万円台までの値引きもありそう。
5、BMW5シリーズ
新車価格663万円〜 / 北米価格53、900米ドル
2016年に7代目G30型にモデルチェンジ。メルセデスとは順番が違って7er、5er、3erの順番で新世代機構が採用されたが、C、E、Sが基本的には同じモジュラー上で並列するメルセデスとは異なり、BMWではプラットフォームこそ同じではあるが、5erと7erは共通機構が多く、ブランド最量販となる3erのモデルチェンジは最後に回され、3erと5erの間にはサスペンションなどで差異が見られる。メルセデスがCクラスを、BMWが5erの販売をそれぞれ伸ばそうとしているわけだけど、3erとの差別化に加え新車価格の値引きも相当に頑張ってくれるので「素のBMW」を買うなら5erがオススメ。
懸念される点は、G30系から派生のクーペは6erから8erへ名称を変更の上発売されたが。その際にこれまでのBMWのイメージを覆すようなインテリアデザインを志向するなど、ブランド全体の方向性が8er投入によって大きく変わった。2001年からの和田智アウディの快進撃の前に敗れ去ったクリス=バングルBMW(再評価の動きもあるが)からの立ち直りにはやはり時間がかかる。アバンギャルドなデザインで再び失敗するわけにはいかず、BMW勤続30年以上で伝説のE39型5シリーズをデザインした永島譲二(武蔵美四天王の一人、和田、永島、中村史郎、奥山清行)が現行のコンサバな7er、5erを担当。次期5erには派手なエクステリアが与えられそうだけど、渋めのグランドサルーンとして現行5erも長く乗れると思うが・・・。
6、マセラティ・ギブリ
新車価格980万円〜 / 北米価格70、990米ドル
親会社フェラーリが製造するV6ツインターボが搭載されるが、クオリティ自体はメルセデスのM276やBMWのN55と同等といった印象。ただしこだわりのショートストロークで高回転域で余裕がありそう。フェラーリの本格派ユニットが搭載されたGT色が強いサルーンが欲しいなら、ワンクラス上のクワトロポルテのV8か、アルファロメオ・ジュリアのV6モデルの方を選べばいい。とにかく北米価格からもメルセデスよりもさらにワンランク上の格付けのブランドだとわかる。横並びなドイツプレミアムとは何が違うのか!?ドイツ車の内装は某国の下請けに丸投げというケースが多いのに対して、イタリアブランドはやたらと純国産に拘る。もちろん某国の内装技術は今では世界屈指のレベルなので、どちらに優劣があるとかいう話ではありませんが・・・。
7、日産フーガ
新車価格427万円 / 北米価格 販売終了
いよいよ北米での販売が終了し、次期モデル発表が間近に迫っている。情熱的な3.7L・VQエンジンの終焉は残念だけど、日本市場に中型・大型のサルーンを新たに複数導入することを公表しているので、次期フーガに加えてサプライズな新型モデルの投入もあるかも。日産の高級モデルや高性能車に共通しているのは、国内外の競合他社モデルは全て潰す!!という飽くなきプライド。インフィニティ用の次世代ユニットとして開発された二枚看板の3L・V6ターボ(VR30DDTT)と可変圧縮比の2L直4ターボ(KR20DDET)を両方持っているなんて反則。ミッションもジャトコが日産のFRモデル専用に開発しているJR710E/711E/712Eを使用。シャシーもボデーもエンジンブロックもやたらとオーバースペックなのが上三川ブランド。日産は1989年の段階で650ps対応のシャシー作ってたわけで・・・。
8、レクサスES
新車価格590万円 / 北米価格39、900米ドル(非HV)
北米で最も売れるプレミアムブランドのフルサイズサルーンで、とりあえず「静粛性」「居住性」「直進安定性」でフラッグシップのレクサスLSを超えている。FF横置きのポテンシャルを存分に使うという意味では、アコードやMAZDA6の上位互換モデルと言える。アコードの2モーター駆動と比べると運動性能ではちょっと部が悪いかもしれないが、そもそも車重が違うのでそこで争っても仕方がない。むしろリアシートに電動リクライニング機能があるなど、ビジネスにおいてもプライベートにおいてもメチャクチャカッコ良く決まる機能が標準装備された「バージョンL」(710万円)を積極的に選びたい。マツダもホンダも大好きなのであまり認めたくはないけど、FF横置きのサルーンとしては最も正しい設計だと思う。レクサスはあくまでアメリカのブランドであり、ESやRXのような非常に合理的なFF横置きの高級車がアイデンティティになっている。
9、ボルボS90
新車販売 販売終了 / 北米価格50、550米ドル
日本では初期限定ロットで正規導入されたけど、カタログからは落とされてしまった。Eクラスや5シリーズの低走行中古車がプリウスの新車価格前後で取引され、毎年排出される在庫車も400万円程度で投げ売り(北米価格を考えれば当然?)されていることを考えれば、S90が割って入る余地はほとんどなく、下手にブランドイメージを損ないたくないボルボはS90の継続導入は見送ってしまった。レクサスESの足回りを良くしたような設計だけど、ロングノーズにこだわったボデーの要領ではちょっと負けているようだ。さらに現状ではレクサスのように手頃な価格で販売できるHV用ユニットが用意できておらず、日本市場では勝算が立たない。しかしレクサス、日産、ドイツのプレミアムブランドのような成金趣味があまり好きではない人にとっては、どうしても捨て難いデザインのグランドサルーンである。
10、ジャガーXF
新車価格636万円 / 北米価格51、100米ドル
2015年に2代目が発売された。XEのアルミシャシーを使った新設計となり、エンジンも直4ガソリン、直4ディーゼル共にXEと共通。最上級の「XF・S」にはV6スーパーチャージャーの高回転型ユニットが搭載され、英国らしいGTサルーンの趣だ。エンジンもシャシーもライバルブランドより優れているのだけど、日本市場ではジャガーのサルーンは全くと言っていいほど売れてない。XFのデザインは好きだけど、WCOTYのデザイン賞を昨年まで3連覇するなど圧倒的なデザイン力を誇っているジャガー=ランドローバーの全モデルの中では、XFが一番テキトーに作られている気がしないでもない。もっとこのクルマにしかない魅力をデザインで付加することなど余裕でできるだろうに・・・。