スポーツカー/ホットハッチ 特集

高性能なグランドツアラーや、快適で高機能なグランドサルーンもいいけど、ドライビングを趣味だと宣言するならば、ドライビング専用の「機材」となるマシンを所有すべきかもしれない。「高品質なクルマ」の価値は多角的で、それらの視点を全て備えることで、各自動車メーカーの取り組みの真贋が見えてくる。間違ってもカーメディアの連中の世迷言など聞く耳を持ってはいけない(と思う)。




 

1、MAZDAロードスター

車重990kg(132ps・1.5L自然吸気)     ホイールベース・2310mm

1980年代、並立する日本メーカーが規格に縛られ独自性を失い画一化が進む。日産がトヨタに、マツダがホンダに抜かれる。トヨタ、ホンダ以外は全滅の運命を変えるべく、「MAZDAの存在価値」「クルマ作りへのモチベーション」をもとに古典的なスポーツカーを1989年に販売したところ、世界的な大ヒットを記録。大型化・大出力化へ突き進むことが不回避な現代の自動車と、車重が500kgほどしかなかった60年代のクルマとの「中間」におぼろげに佇む。1989年の段階では専用設計の軽量スポーツカーなど珍しい存在ではなく、トヨタにもあったけども、今では「奇跡」とか言われる存在になった。260万円〜で主要市場に専用設計スポーツカーを売るのはグーグルでも難しいだろう。

 

2、MINIジョンクーパーワークス

車重1260kg(231ps・2.0Lターボ)    ホイールベース・2495mm

トルコ人技師が英国で設計した小型車が流転の果てに世界で最も有名な小型車アイコンになった。厭世的なモッズ&ロッカーズ(パンク)文化によって世界的な知名度を得たことが大きい(ピストルズ、クラッシュ、オアシス、ヴィヴィアンウエストウッド、トライアンフ、ノートン、リバプール、アーセナルなど)。デザインから乗り味まで徹底してクセが強い。「運転中に眠くなるようなクルマはいらない」・・・そんな人々がハマって指名買いするブランド。

 

3、VWポロGTI

車重1290kg(200ps・2.0Lターボ)    ホイールベース・2550mm

ロードスターのように車体コントロール性向上のため出力を抑えたり、ミニJCWのように暴力的な加速特性でスリリングな商品力に訴えたりではなく、ドイツ車らしく小型車で左レーン(追い越し)を走れる「アウトバーンの民主化」がテーマだったという昔日のゴルフGTIの「オマージュ」的な意味合いもあるようだ。ゴルフ7GTIも非常に感銘を受けたけど、それを一回りタイトにさせたボデーなのでかなり期待していたが、ハンドリングはそれほどシャープになった印象はない。ピーキーなハンドリングは、高速域でかなり変則的な制御機構(輸入車はこれがヘタ!!)がないと疲れてしまうし危ないので、シンプルに高速巡航を狙いとしているのであればこのハンドリングが合理的なのかもしれない。




 

4、MAZDA2・15MB

車重1030kg(116ps1.5L・自然吸気)    ホイールベース・2570mm

MAZDAの将来的な計画の中でBセグの存続ははっきりと明言されていない。Bセグが売れるアジア、アフリカ、東欧の各市場への積極的な展開に否定的なMAZDA(現地生産がネック)にとってはメリットを見いだすのは難しいと言われている。MAZDA2とミニだけがBセグでトルコンATを装備している。Cセグのゴルフ、Aクラス、カローラ、シビックでも使えないのに贅沢過ぎる。MAZDAにとってBセグを続けるメリットは「スポーティなモデルを作りやすい」「TOYOTAとの協業」「日本市場向けのBセグを守る」といったところだろうか。MAZDAの他の車種では設定されていないスポーティなグレード「15MB」が4代目デミオのデビュー当時から設定されている。メキシコ工場ではトヨタ向けOEMモデルを作っていて、アメリカの自動車メディア(CAR and DRIVER)でトヨタブランド唯一の5スター評価を受けていた。

 

 

5、SUZUKIスイフトスポーツ

車重970kg(140ps・1.4Lターボ)     ホイールベース・2450mm

何年か前のドイツの自動車雑誌を持っているが、そこに「ハンドリングのいいクルマベスト10」という特集があり、マツダ・ロードスター(NC)とスイスポ(先代)の日本車2台がモーガン、ケータハム、ロータスのモデルに混じってランクインしていた。日本市場のSUZUKIにはアルトワークスやアルトターボRSといったスポーティな軽自動車があるけど、スイスポの方が中速域から先の乗り味に余裕があり雰囲気はだいぶ違う。ステアリングはまだまだゆったりと握れるくらいの中庸な気分なのにハンドリングが気持ち良いし、シートとペダルから現在の速度域と路面状態がとてもよく伝わる。MAZDA2やミニといった他のBセグと比べてドライビングの一体感(ONENESS)は高く、機動性とコントロール性が両立したユニットも含め完成度の高さにただただ脱帽・・・。

 

 

6、トヨタ・ヤリス

車重980kg(120ps・1.5L自然吸気) ホイールベース2550mm

ちょっと前に書いたけど、トヨタがいくつかの高回転型NA用エンジンを新開発したことに驚いた。トヨタイムズで熱く語っていることは、決して偽りではないことを証明した。MAZDA2・15MBとスイスポとのライバル関係をデッチ上げるような価格設定だけど、この両猛者を相手にできるだけのハンドリング機構の改善の痕もしっかり見られる。他のメーカーならここまで注力すればもう十分だと納得するところだけど、やはり業界トップを悠然と進むトヨタはさらにストイックさを発揮。スポーツ一辺倒でコケた苦い経験があってのことだろうけど、エクステリアで「保険」を掛けてきた。FMCの時期が重なった新型アウディA1と素人では簡単に見分けられないレベルで似ている。ジャストコンパクトアウディである「A1」を愛用していて、新型A1へ乗り換えを考えていたユーザーにとっては気になって仕方ないだろう・・・。




 

7、ルノー・ルーテシアRS

車重1290kg(200ps・1.6Lターボ)     ホイールベース2600mm

2020年2月の欧州統計でVWゴルフを首位から陥落させたクリオ(ルーテシア)。5年くらい前から欧州市場ではゴルフとのクラスを超えたライバル関係が続いていた。最近の欧州統計では、ゴルフ、フォーカス、オクタビア(Dセグ)、3008を除けばBセグ車ばかりになっている。A/Bセグだけでランキングを作ると、

1、クリオ(ルーテシア) 2、プジョー208 3、オペル・コルサ 4、フィアット・パンダ 5、シトロエンC3 6、VWポロ 7、トヨタ・ヤリス 8、フォード・フィエスタ 9、フィアット500 10、ダチア・サンデロ

の順です。あれ?日本メーカー&韓国メーカーはトヨタのみだ。実質的にクリオとサンデロは日産、コルサはスズキ、フィエスタはMAZDAのプラットホームではありますが、日本でも人気が上がっているイタリア、フランスのメーカーの小型車は本拠地でも人気が高いです。

FF横置きのハッチバックスタイルの原型で世界で最初に大ヒットしたとされるのが、1972年のルノー・サンクで、その後に1974年に初代VWゴルフが続いて大ヒット、1980年日本でも東洋工業が5代目ファミリアで大成功を収め、これを起源とするB系プラットホームが現在の欧州2大Cセグのゴルフ&フォーカスにつながる。ハッチバックを発明したルノーの主力モデルのルーテシアが欧州の頂点に返り咲く。欧州市場は伝統へのリスペクトが大きいようだ。

 

8、アルピーヌA110

車重1110kg(252ps・1.8Lターボ)     ホイールベース2420mm

ここに挙げた10台の中でも圧倒的なパワーウエイトレシオは4.4kg/psで、直6ターボ搭載のトヨタ・スープラの4.5kg/psを上回るレベル。340ps版スープラの加速性能と86と同等以上の旋回性能を備えて、お値段は直6スープラとほぼ同じ。ケータハムやロータスに匹敵する運動性を持っているけど、2ドアクーペとして普段でも使える。そりゃ注文殺到でオーダーストップになるのも当然だ。他の9台と比べると価格が2倍くらい高いけども、MAZDAロードスターだけが守ってきた専用設計スポーツカーの領域に踏み込んだ歴史的モデルなのは確実なので掲載した。搭載されている日産の1.8Lターボはまだまだ余力があるようで、あまりの注目度の高さにブーストアップでラインナップ拡充が噂されている。車重が変わらないならば370psまでスープアップすると日産GT-Rのベースモデルと同等の3.0kg/psに到達する。1000万円そこそこで買えるGT-Rのコスパも凄いが・・・。




 

9、アバルト595

車重1110kg(145〜180ps・1.4Lターボ  ホイールベース2300mm

300〜400万円の価格帯で強烈なスポーツライドが楽しめる。ライトウエイトスポーツモデルにおいて、車重&出力以外でスピリッチュアルなドライビングフィールを演出する要因として「駆動方式」と「ホイールベース」が挙げられる。駆動方式に関しては、AWD<FR<FFの順にスリリングなフィールになる傾向が強い。MINIやスイスポの人気が高いのはFFだからであり、FR化やAWD化を主張する輩はマンガやゲームに毒されている可能性が高い。ホイールベースは納得してもらえるだろうけど、短い方がスポーツカー度がアップ。90年代の911、RX7などは2400mm前後だった。現行911は718ボクスターよりも短い2450mmに収まっている。

2400mm=スポーツカー    2600mm=Bセグハッチバック

2800mm=C/Dセグセダン        3000mm=E/Fセグサルーン

が目安となる。FFでホイールベース2300mmのアバルト595のスポーツフィール偏向性はこの10台の中でもトップクラスだと言える。興味本位で試乗したらその後の半年くらいは、どうやりくりして購入しようか無意識に考えてばかりになってしまった・・・。

 

10、ホンダS660

車重830kg(64ps・0.66Lターボ)  ホイールベース2285mm

ホンダの軽自動車のホイールベースは2520mmでMAZDA2に迫るサイズであり、しかもトレッドも狭いので思ったほどスポーティな手応えはないが、このs660やダイハツ・コペン(2230mm)は狭めてスポーティな乗り味を作っている。デビュー当時から軽規格の自主規制64psを超えるユニットを望む声があったけど、実現はしていない。それでもあらゆるディメンジョンがスペシャルな数字で作られているのでエンスーな要素はいくらでもある。