アルファとジャガーはなぜ「空気」になった?
根強い人気のドイツブランドと、割安感がかなりの追い風となっているフランスブランドに押し出されるように日本市場で存在感を無くしているアルファロメオとジャガー。いうまでもないけどイタリア、イギリスを代表するスポーツカーブランドとしてグローバルで知名度を得ていて、両ブランドにはそれぞれ2000年頃に、「アルファ156」と「ジャガーXタイプ」という日本市場でも大いに話題になったスポーティサルーンがあった。
強烈な記憶
アルファ156はE46系BMW3シリーズと並び、1990年代の欧州ブランドが生んだ最大のDセグヒットモデル。絶対にカーメディアで描かれることはないけど、当時の欧州市場を裏から操り主導権を握っていたのはHONDAだった。厳密にいうと、1980年代の後半にホンダ・プレリュードが「フェラーリと同じ足回り」を装備して欧州市場に強烈に一撃を叩き込み、さらに日産の奇才・水野和敏が企画したプリメーラ(P10)と、MAZDAを復活させた金井誠太が渾身で設計したアテンザ(GG)の合計3発が欧州COTYの中型車部門にその足跡を残した。
ビーエムをねじ伏せる
HONDAのスーパースポーツ企画のスポーツサルーン設計は、提携先の英国ローバーを奇跡的に回復させ、アルファロメオやプジョーがその設計を研究して模倣した。その結果生まれてしまったのがアルファ156という大ヒットモデルで、HONDAが革命を起こした、FF横置きのフロントサスにダブルウィッシュボーンという設計をそのまま採用し、BMW3シリーズすらも超えるエレガントなハンドリングを実現した。
スポーツセダンの大正義
まだまだセダンも国内専売モデルが多い時代だったので、当時のカーメディアが盛んに主張していたように、ある種の定規を使えば日本メーカー車よりも欧州メーカー車の方が高い水準にあると表現することも可能だった。しかし日本メーカーの「頭のおかしい」技術者が本気で欧州制圧するためのスポーツセダンを作ってしまえば、欧州メーカーのクルマ作りにも多大なる影響を与えてしまう。その結果生まれてきた代表格がアルファ156であり、ジャガーXタイプ(MAZDAのシャシー&エンジンを使用)だったと思う。
ジュリアとXEは・・・
アルファ156が300万円台で、Xタイプが400万円くらいだったと思うが、今よりも若年層の給料水準がはるかに高い時代なのだから新車購入のハードルは間違いなく低かったのだから、今よりも売れて当たり前ではある。そんな日本市場との親和性も非常に高かった両ブランドだけども、直近の販売状況は絶望的だ。アルファ156やXタイプを受け継ぐ現行モデルとしてジュリアやXEが登場した時は再び日本で火がつくのでは!?という微かな期待感こそあったけども、振り返ってみると「FRにすればいい」はさすがに安直過ぎたし、自動車メーカーとして勝負をかける新型モデルに注ぎ込むべきアイディアが決定的に不足している。
売れるエンスーカーとは!?
誤解を恐れずに言ってしまえば、600万円くらいの価格に設定されているジュリアやXEのベースグレードよりも、ゴルフGTIやシビックtypeRといったCセグ車の方がメーカーの信念・哲学がしっかり反映されていて、ハッキリ言って「お金の出し甲斐がある」。本来ならば、アルファロメオやジャガーは、VWやホンダよりもさらにマニアックな「商品性」を発揮してカーエンスーから評価されるべきブランドなのだけど、ブランドイメージだったり戦略の軸となる構図が崩れてしまっている。
2000年代のスポーツセダン
アルファ156やジャガーXタイプは、単純比較こそできないものの、同時代のアコード・ユーロRやゴルフV・R32と比べても決して引けを取らない「個性」があった。HONDAが仕掛けて、NISSANとMAZDAが全力で猛追するクレイジーな開発競争が欧州メーカーを飲み込んでリーマンショックまで続いた。過当競争で余力がないのに未曾有の経済クラッシュに直面したから、アルファロメオもジャガーもプジョーもMAZDAもボルボも木っ端微塵に吹っ飛んでしまったが・・・。
絶望の時代
「ポスト・リーマン」という時代は乗用車エンスー派にとっては、果てしない失望の連続だ。ジュリアやXEに限らずレクサスIS、RCやカムリ、アコード、アテンザ(MAZDA6)にしても、もはや「プレ・リーマン」の時代とは違い、エンジン、シャシー、サスペンション、ミッションなどの主要部品の汎用化が止まらない。その中でも残念だったのが、ジュリアとXE(とレクサスISとスカイライン)が・・・プレ・リーマンの頃からFRシャシーで汎用化合戦を繰り広げていた2社の後を追っかけてしまったことだ。
不可解な戦略
中国などでプレミアムカー市場が大いに拡大するという予測で、日本や欧州向けのこだわりのスポーツサルーン設計を捨てて、外張りだけ立派な汎用部品満載のクルマ作りが「プレミアム化」というならば、中国のユーザーをちょっとバカにしているんじゃないの!?なんだこの無個性な欧州車たちは・・・。これ買うくらいだったら中国の高級ブランド「紅旗」の高級サルーンの方がいいくらいだ(中身はマジェスタとアテンザ)。ご存知のようにやる気のない型落ち2Lターボが並んだ中国サルーン市場は崩れ落ち、メルセデスもBMWも今では販売の7割以上がSUVという状況。
2Lターボという萎える設計
開発・生産のほとんどの機能をすでに中国に移管しているメルセデスやBMWならまだしも、ジャガーはイギリス&ベルギーで、アルファロメオはイタリアでの生産を続けているのに「中国向け設計」を選んだことは、致命的な戦略ミスとしか言いようがない。挙げ句の果てに欧州市場や日本市場では一部のスペシャルモデルを除いて完全にそっぽを向かれてしまった。1000万円クラスのグレードにはフェラーリの設計を使ったハイチューンエンジンや、スーパーチャージャーのレスポンス効果を狙った俊敏なV6ターボが用意されていて、AMGやM/アルピナとの設計の違いを感じることもできるけども、それはかつて日本市場で存在感を示したアルファロメオ、ジャガーの姿とはかけ離れているので、そう簡単にはユーザーはついてこれない。
同情すべきところもあるけど・・・
2000年頃のジャガーやアルファロメオには、HONDA、NISSAN、MAZDA、MITSUBISHIなどお手本となる元気な日本メーカーがあったけども、現在では欧州市場で存在感を示している日本車Dセグは無くなってしまった。失礼ながら元々それほどのオリジナリティを持ち合わせていないアルファロメオやジャガーにとっては「路頭に迷う」状況が続いているのだろう。メルセデスやBMWのマネをしてみたらとんでもない危機的な状況になった。次の一手は・・・やはり電動化なのだろう。
「間違った」構図
全く持って想像力不足な日本のカーメディアにとっては、ジュリアやXEが、Cクラスや3シリーズとほぼ同じ設計で登場したことで、さぞかしレビューで説明するのが楽で良かっただろう。どのレビューを読んでも「Cクラス、3シリーズのライバルモデルとして名乗り・・・」などと書いてあった。AJAJライターのプロ意識が低すぎるのか?そう書かないと理解できない読者が馬鹿過ぎるのか?・・・いずれにせよそんな「定型文」で簡単に片付けられてしまう構図しか描けないクルマ作りに、何百万円も払うこと自体がアホだと気づくのが普通だ。