二玄社から発売されている「世界の名車をめぐる旅」というエッセイ集が面白いです。出てくるクルマはスチュードベーカーやらパッカードやら・・・50年前に消えたブランドですから、さすがに実車を見る機会はほとんどないです。それでもこの本のおかげでアメリカの高級車がキャデラックまで受け継いできた伝統とは「何」なのか?が写真で見るとなんとなくわかってきます。まだまだビッグ3に集約される前のブランド乱立の時代には、とにかくアイディアが豊富でなんでもアリなデザインになってます。単純にサイズがデカいというわけではなく、「表現がデカい」から必然的にそれを満たすサイズが大きくなるんでしょうね。その一方で最新のキャデラックはグローバル向けサイズに抑えられているのでちょっと窮屈そうに見えなくもないです。
アメリカの伝統に対して「保守的」なデザインこそが、実はC7コルベットなんじゃないか?と思うのです。表面的な意匠こそイタリアのスーパーカーから大きな影響を受けていますが、アメ車の伝統とは実は「困ったらイタリア」・・・だったんですね。ピニンファリーナなどは50年代前半からどんどん使っている!!もちろんランボルギーニ・ミウラが登場するより10年以上前です。当時は唯一の超大国として存在したアメリカのメーカーがイタリアのカロッツェリアに仕事を与えてたのですね・・・。
日本やドイツのスポーツモデルをイメージしながら現行のコルベットを見ると、このクルマに備わる「美点」になかなか目がいかないかもしれません。大排気量V8をクラシカルに楽しみたい人のためのクルマ!!みたいな偏見だらけ?の結論を出しているレビューもありました。日本で市販されているクルマの文脈から言えば完全に異端児ですから、まあ理解に苦しむのも無理ないですし、読者に解釈を伝えるのも至難の技だとは思いますが・・・。
ただし、この本を読んでしまうと・・・すっかりコルベットの見方が変わりました!!本来のアメリカ車にあった自由な設計がほとんど見られなくなった現代において、跳ね馬や猛牛のように3000万円みたいな価格を提示することなく自由な設計を実現しています。いやいや・・・そんな安っぽい言い方はないですね。このクルマだけが50年前の価値観を今も引き続き保っている。日本メーカーもドイツメーカーも真似できないような「理性的な存在」のまま残っていると表現した方がいいかもしれません。
日産GT-RやトヨタRC-Fもコルベットと同程度の価格のハイパフォーマンスカーですし、スバルWRX、ホンダtypeR、BMW・M2のようなもっとリーズナブルな価格でとんがったモデルもあります。しかしそれらのモデルには世界をリードする存在であった日本メーカーやドイツメーカーに刻まれている「量産車の制約」が亡霊のように付きまといます。より1台1台に入魂していたであろう50年代の名車を見ていると、21世紀の量販車はあまりにも勝手が違い過ぎます。もちろんC7コルベットも現代の量販車に他ならないのですが、GMというメーカーが世界のユーザーのカーライフを華やかなものにしたい!!という情熱に対して忠実に仕事をしていることがわかる1台だと思うんです(余計な説明などなくても)。
ちょっと余裕がある生活を送る人にとっては跳ね馬こそが本物と映るでしょうし、カツカツの生活をしている人にとっては「GMの仕事」に応えるだけの余裕はないかもしれません。その結果なんだかんだで敬遠されてしまうモデルになってしまっているのかな〜?・・・残念です。このGMの仕事ぶりに匹敵するのは日本車だと、1990年発売のホンダNSXくらいじゃないですかね? マツダがRX9を800万円前後で予定していたらしいですけども、これが実現したならば・・・。
他にも英国ブランドのブリストルやフレイザー・ナッシュなどのモデルをもっと身近に感じるには、やっぱり光岡自動車へ行くのが手っ取り早いかもしれません。とりあえずカローラアクシオをベースにしていて、MTモデルも備えている光岡「リューギ」(237万円〜)がいい感じです。トヨタのアクシオは上級グレードの5MTで160万円。とってもシンプルで低コストで、これはこれで素晴らしい製品だと思うのですが、いざこのクルマで活動すると考えると、ちょっと気が引けてしまいます。マークXにMTがあればちょうどいいなー・・・。そういう人には光岡リューギはニーズがあるんじゃないでしょうか?
50年代のクルマとは、徹底してハイスペックを目指して作られたクルマがあって、その一方で取り急ぎ国外の評判の良いクルマの設計をそのままライセンスで拝借する車があったようです。ハイスペック部門がコルベットならば、OEM部門はリューギですね。1930年代には英国のフレイザー・ナッシュがドイツのBMW328を輸入して自ブランドのバッジを付けて販売していたこともあったんだとか。まもなく登場するトヨタの新型スープラもBMWの開発&生産で話題になっていますが、そうじゃなくて、すでに定評のあるBMW・M5辺りを輸入してレクサスのバッジを付けて売る!!なんてなかなか風流じゃないですか? 光岡にはぜひ色々なクルマとコラボしてもらいたいなと思います。