引きこもり系ツアラー
結局のところベントレーやランボルギーニは資本主義が生み出した幻である。破滅的な維持費はともかく、出先の屋外駐車場に長時間置いておけないし、日本のほとんどの道をまともに走れないのだから、もはや「クルマ」と定義できるかどうかも怪しい。
必要な人を乗せてロング・ツーリング可能で、ミニマムでスタイリッシュなグランドツーリングカーは、2000年頃の空気によく合っていたと思う。アウディTT、RX-8、Z33が、ちょっと遅れてVWシロッコ、ポルシェ・ケイマン、BMW1シリーズクーペ、プジョー・クーペ407、ホンダCR-Zなどなど、ハードトップの2ドアクーペが増えていった。
同じ頃に「Cセグハッチバックのグランドツアラー」としてVWゴルフとMAZDAアクセラが世界的にヒットし、自動車業界の中心的存在に成り上がった。トヨタもカローラランクスを発売し、欧州市場に足場を築いた。タイトなキャビンに包まれての高速ロングドライブは「ゴミクズな日常からの現実逃避」という用途に見事にハマった。今ではそれに代わってネット動画やオンラインゲームがあるのだが。
2000年頃はまだレギュラーガソリンが90円くらいだった。年齢のせいもあるかもしれないが仕事がない日ならばそれほど時間に追われる感覚もなかった。ネット時代になり、隙間の時間の利用が進んだが、それと同時に休日の時間全てをドライブに当てることに罪悪感を覚えつつもあった。2000年頃とは違い、ネットには「ウェルフェア」な言葉が溢れていて、わざわざクルマを使って現実逃避をする必要すらないのかもしれない。