2016年はドイツブランドの中型セダンにお買い得なモデルがどっさり増えた実りある年でした。他のメーカーに先駆けてメルセデスが300万円台のミドルセダン風の4ドアクーペCLAを日本でヒットさせたことが引き金となって、BMWが1.5Lの3気筒ターボを搭載した3erを400万円で発売し、同じタイミングでアウディも1.4L直4ターボのアウディA4を400万円台で投入しました。アテンザ、レガシィ、アコード、マークX、ティアナといった日本のセダンもDセグでは軽く400万円近くになりますから、もはや100万円以上の差はつかない状況です。400万円で輸入車を欲しいという人と、400万円なら無難に国産車を選ぼうという人は一体どっちが多いのか?どうやらドイツ勢が優勢だという話です。
外観上はたしかにドイツ車なんですけども、最廉価グレードだと内装はだいぶ省略されます。内装を重視する人だったら圧倒的に日本勢の方がコスパはいいのは間違いないですけども、「クルマを豪華にする」ことがそれほどカッコいい時代でもないですし、年配の人向けに誂えたインテリアは「ベージュ」や「木目」がいまだに使われていて、高級とダサいは「背中合わせ」の関係だったりします。インテリアのパネルなどはやる気さえあればいくらでも張り替えられますし、実際に市販モデルよりもはるかに高級なカーボン素材でデコる人も多いです。まあ300~400万円で納得できるならドイツ車も日本車もどっちもOKだと思います。
そんな2016年にひっそりと日本に導入されたDセグセダンの新グレードが「VWパサート・2.0TSI・Rライン」なんですけども、名前の通り2L直4ターボを搭載となっていて、エンジン自体はゴルフGTIの220psのユニットをそのまま使っています。ゴルフシリーズで最もバランスの良い走りが出来る(と思っている)「GTI」は、VWのラインナップで最も気に入っている一台なんですけども、特に「スポーツモード」での走りの表情を変えたキレのある加速を体感すると、「2Lターボの懐の広さ」に惚れ込んでしまい、VWジャパンの主力ユニットである1.2Lや1.4Lなどへの興味が一気に薄れていまいます(最初からないけど)。やっぱり輸入ブランドを選ぶならクオリティカーだなーと。
400万円に迫る価格のゴルフGTIですから、それと同じエンジンを積んだパサートとなると安易に安売りすることも出来ずで、499万円というなかなか意味不明の設定価格になっています。ただし中身を見ると、パサートのベースモデル(329万円)とはほぼ全てが変更されていて、共通のエキップメントを装備表から探すのが難しいくらいです。シート、オートエアコン、リアのサンシェードなどなど。他の人を乗せる機会も出て来るセダンなら「絶対に欲しい!!」という装備がことごとく標準で付いてきますから、これをじっくり見たあとなら499万円も値引き次第では「GOOD PRICE」に見えてきます。
Dセグにおいては500万円がプレイアム/非プレミアムの境目とされていて、ベースモデルが300万円台のパサートはもちろん非プレミアムに分類されます。しかしながら、カンパニーカー(エクゼクティブの契約に付与されるためのリースカー)のニーズを持つパサートですから、「車格」に応じた装備が充実していて、実際のところメルセデスSクラスのようなトップエンドのセダンに近い装備を持つDセグはVWパサートのこのグレードとアコードHVの上級グレードくらいじゃないでしょうか。ティアナはフーガとハッキリと差別化されていますし、マツダもブランド内での互換性が低いアテンザLパケ専用装備をあれこれ頑張っていますが、まだまだ行き渡らない点が見受けられます。それに対してVWならばアウディやポルシェのセダン用に開発した機構のお下がりを選ぶことも出来ます。
VWが日本に導入している2Lターボエンジンは「EA888型」という型式だそうですが、このエンジンもなかなか手が込んだ仕様になっています。2LのガソリンターボはBMWもメルセデスもキャデラックもスバルも直噴ターボが当たり前だと思ってましたが、トヨタとVWだけは「ポート噴射」と「直噴」を併用するタイプになっています。「ポート」の方が高回転化に有利で「直噴」は低速トルクを太くするのに有利と言われていますが、中にはポルシェのように6500rpm回してしまう傑物の直噴ターボもあります。「ポート」の有利な点としては他に排ガスの浄化に効果的だと言われています。VWの1.2Lや1.4Lは2017年から日本では型式認証が取れなくなるので、新型の1.5L直4ターボに変わっていくと思われますが、いわゆる最低レベルの環境性能だったVWは敬遠したいけど、ポートも使っている2Lターボなら多少は気分良く乗れると思います。
エンジンだけでなく、対応するミッションもベースモデルとは違うものが使われています。ゴルフのユニットと同じなので、1.4Lターボに使われる乾式7DCTの「DQ200」がそのまま使われているベースモデルに対して、「2.0TSI・Rライン」では2Lターボの大トルクに対応できる湿式6DCTの「DQ250」が使われます。この2機のDSGは形式名が似ているので同じサプライヤーのものだと誤認しますが、「DQ200」の変速機はシェフラー製で、ホンダのDCTを担当したサプライヤーです。一方で「DQ250」はポルシェと共にPDKを開発したボルグワーナーのライセンス商品です。実際にゴルフ・ハイライン(DQ200)とゴルフGTI(DQ250)では変速速度と出足の安定感がだいぶ違います。
「ホンダ・アコードHV・EX(410万円)」か、「VWパサート2.0TSI・Rライン(499万円)」か、日本で発売されているDセグセダンをトータルの「満足度」を基準に選ぶなら、案外この2台に収斂するんじゃないかと思います。ホンダの方がお買い得に見えますが、このアコードもなかなかの「オプション豊富」なモデルで、実際に見積もりをするとレザー&サンルーフのセットオプション(30万円)を付けてパサートRラインとやっと同等になります。さらにエクステリアの質感を上げていくと500万円を軽く越えちゃいます。一方でパサートは渋さが光るエクステリアにR専用パーツが付いてくるので、特に弄るところはないです。価格面では互角といっていいかも。
3シリーズ、Cクラス、アウディA4の3台がパサートのベースモデルみたいなエンジンを搭載して、ほぼ同じ価格帯で競合しますが、納得の価格で「ドイツ的思考」への耽美に浸りたいなら、プレミアムの3台も十分に愉しめると思います。しかしそれとは全く別の次元・別のベクトルで「パサートRライン」と「アコードHV」は対峙してます。どちらの潮流も日本のセダンの停滞気味な状況を打破するためにも、どんどん盛り上がってほしいとは思いますが、「セダン本来の魅力」や「セダンの未来&進化」を500万円前後かそれ以下の価格帯で見せてくれているのはVWとホンダかな・・・と。