欧州の自動車メーカーの見通しは10年以上前から『真っ暗闇』です。北米や日本のメーカーも状況はあまり変わらないかもしれません。世界中のクルマが中国で作られるのも時間の問題なんですけども、その雁字搦めな状況の中で『何か』しようともがいているメーカーがとても多くて、思わず全部買ってあげたい気分なこの頃です。スバルやマツダもとても健気ですけど、ボルボ、アルファロメオ、ルノー、プジョー、シトロエン、ジャガーなどが生命力を一杯に湛えて日本に押し寄せてきます。近くの韓国や中国の生産車を全く近づけない意固地な日本市場が、欧州ブランドにはメロメロです。
2000年頃から、自動車産業全体はもはや「サプライヤー主導」で動いていると指摘されてますが、それならば欧州メーカーも中国メーカーもほぼ同じ規格・水準のクルマを作るはずです。実際に欧州の実用レベルを比較すれば似たりよったりです。欧州のピープルムーバーと中国のワンボックスはもはや一般人には識別不能です。早い話が中国の工場に欧州で大量に売られているような安っぽいピープルムーバーを作らせておいて、アウディだとかメルセデスだとかブランドバッジを付ければ世界市場では商売として完結するわけですが、欧州メーカーはどうやら日本市場をそういう場所とは見ていないようです。
『日本が喜んでくれるから・・・』とまでは思ってないかもしれないですけども、日本のクルマ好きが喜ぶ方法を躊躇なく実行するという意味では、日本メーカーをはるかに越えた場所にいるのんだなーと思わせてくれます(ロータリーの復活?くらいで悩むな!!!)。そして新たに象徴的なクルマが出てきました。西欧文化の伝統とは『再発見』であり『ルネサンス(巻き戻し)』なんでしょうね・・・。ちょっと皮肉ですがスズキが「イグニス」で仕掛けるデザイン復興は日本のユーザーを十分に捉え切れていないのに、欧州メーカーの同様の思い切った戦略は1万キロ離れたアジアの果てで高く評価されています。
ルノーとダイムラーが自動車工業の黎明期に多数存在したRR駆動の乗用車を復活させたのには驚きでした。半世紀に渡ってRRを保持したポルシェや、トラクションの関係で後輪駆動を選ぶ日本の軽バンを除けばほぼ例を見ないエンジニアリングが突然変異で出現しました。東南アジア・南アジアで徐々に芽生えている新興自動車産業は、政府が強く主導する中国ほどにはダイナミックな変化は起こっておらず、生産台数がバブルのように膨らむこともないです。中国車が日産、マツダ、VW、BMWなど最先端を自認するメーカーとの合弁によって日本車や欧州車の水準まで一気に引き上げられているのとは対象的に、インド、インドネシアなどではクルマと分類してよいのか怪しいくらいの風貌のモデルも複数あります。
日本車も欧州車も大衆モデルは『ジアコーザ式横置きエンジンを使ったFF車』という定型化が1980年代から30年以上続いたことによる『マンネリ』が蔓延しているのも事実です。冒頭にも書きましたが、サプライヤー主導による合理化の弊害で、日本、ドイツ、フランスにそれぞれ複数存在するメーカー間の差別化が難しくなってきました。あのメルセデスやBMWでさえもFFモデルがかなりの割合に達してきました。
そんな風潮を打破する意志。それが日本メーカーには希薄で、ルノーとメルセデスには危機感が共有されていたんでしょうね。もちろんトヨタ&PSAが欧州Aセグメントで協業して完成したモデルがフランクフルトでもジュネーブでも主役級の扱いを受けたことは、スマート&トゥインゴの開発陣には過剰なまでのプレッシャーになったはずですが、そんな絶望的な状況こそが最大のチャンスとばかりに『思いっきり』尖ってきましたね・・・。三栄書房が『21世紀のフランス革命』とかコピーライトしてましたけども、それくらいの讃辞に値する快挙だと思います。
スマート&トゥインゴに限らず、2012年にはジャガーが2シータースポーツカーを作ったり、今年はアルファロメオがFRのスポーティセダンに着手したり、ボルボがビッグサルーンのサスをリーフスプリングにするなど、欧州メーカーが『差別化』に動き始めた感があります。サプライヤー(ボッシュやトヨタ系列)に主導権を獲られてたまるか!自動車文化の主役は自分達なのだ!と主張するかのようですね。