発売から半年以上が経過してもまだまだ「新型プリウス 肝心の走りは!?」みたいな記事を一般メディアで見かけます。2016年上半期の売り上げランキングを完全勝利で走り抜けたトヨタの「決定版プリウス」ですから、さすがに世間の認知度も高いんでしょうから、タイトルからオチがわかってしまうような記事はもういいんじゃないの?もちろんオチは「走りはすごく良くなった!」なんですけども、これまでのトヨタが『是』としてきたことを一気にひっくり返してしまったこのクルマに少々複雑な想いがします。
トヨタに限った話じゃないですけど、自動車メーカーが推し進める『進化』が必ずしも良い結果を生むとは限らないです。自動車メーカーがより良いカーライフの実現のために『必要なもの』『不必要なもの』を選別して、作った結果が、これまでのそのメーカーの全否定だったりすると、ユーザー側も『心の準備がまだ・・・』みたいなドギマギした感じになっちゃいますよね。トヨタの先進的なHVに乗る!と思ってプリウスの代替わりを楽しみにまっていた人々が、うっすらと描いていたであろうカーライフがいろいろな意味で変化しちまっただろうな〜・・・ってのがプリウスの雑感です。興味を持って新型に飛び込む勇気だある人ならいいですけども、あまりにも唐突すぎる。
トヨタの首脳部が変わったので看板モデルのプリウスも方向性もガラリと変わりました!!!ってまあわかる話ですけど、プリウスが刻んできた20年は一旦リセットされちゃった感が強いです。今後発売されるプリウスPHVには、モーターによるフル加速機能が追加されて、テスラのような方向性を歩み始めるようです。テスラとは最近ではGT-Rと同等に加速するフルサイズセダン作って「強いアメリカ」を印象づけているアメリカのEVメーカーです。もしかしたら1997年のプリウス誕生当初から、「力強く世界を制覇するプリウス」をいう青写真はあったのかもしれないですが、日本らしく牧歌的でコミカルなデザインの「国民車」が、いつしかポルシェやテスラと対峙する「スーパービークル」に進化していく!そんな転換点がこの4代目プリウスなのかもしれません。
トヨタだけじゃなくて、他のメーカーもユーザー不在の、いや既存ユーザー不足ゆえの「自虐イメチェン」に走り過ぎているのではないか・・・。特に深刻なのがマツダかも。初代アテンザは『欧州最前線』を戦い抜くことだけを考えて作られた傑作車でした。初代モデルのデビューにおいて、ここまで見事に成功した例は、長い歴史を遡ってもユーノス・ロードスターとアテンザだけですね。あとはオデッセイなどいくらか注目されたものはありましたが、現行モデルまで続いているものではなかなか無いです。そんなマツダ車2台ですが、ロードスターはキープコンセプトなのに対して、アテンザは完全刷新されました。初代アテンザからして欧州ブランドの影響を多く受けていましたが、現行の3代目になって完全に「飛び道具」的な要素は無くなりました(あえて言えば売りはデザイン?)。
「飛び道具」的な要素が無いクルマって、やっぱり飽きるよー。デザインこそとても流暢だけど、無難に走って無難な乗り心地という意味ではミニバンとコンセプトは同じです。ゆったり乗れるという意味では「セダン」も「ミニバン」も「SUV」も考え方は一緒!という業界の常識の前に、初代アテンザに込められたポリシーはすっかり全部捨ててます。それって進化なのか?マーケティングに完全に頭掴まれて身動き取れない状況でクルマ作ってるだけじゃないの? 産業における「進化」のためには「一定のボリューム」が必要。よって進化のカギを握るサプライヤーはエゲツナイくらいの営業合戦を繰り広げます。
本田宗一郎は戦前から続く大規模な産業コンツェルンを毛嫌いしていた節が著書から読み取れます。戦前から日本を支えてきた三菱重工が21世紀になってもデカい顔しているのが、ホンダもトヨタも気に喰わないのかなー。全く近づこうともしないですね・・・三菱が威張るターボなんて出来れば使いたくない。まあ完全に想像の世界ですけども、産業の世界で人間が感情を持って働く限りは、そういった「不経済」な要素もあるでしょう。別にカルロス=ゴーンさんには感情が無い!なんて言ってないですよ!!そういった不健全な要素も含んだ『進化』の果てにプリウスやアテンザといった「異形」の産物が作り出されるんですね・・・この2台にはどこか「狂気」を感じるんですよ。