改めて読み返してみると、この本はやっぱり面白いっす。クルマ好きのツボをよく押えてますよ。「レクサスとBMWの実力関係」なんて誰もが興味津々だと思うんですが、なかなかプロの評論家でハッキリと断言するヤツは少ないですし、ましてや「レクサスの勝ち」と断定した評論家はこの人が始めてじゃなかろうか? IS350Fスポってそんなにスゴいのか〜!!!って、堅苦しくてあまり好きじゃないレクサスのディーラーに、しかも試乗車があるちょっと遠くの店舗まで行っちゃいました。印象はあんまりよく覚えてないです。ワインディングでスピード出したら即座に介入が来て一気に興奮が冷めたのは覚えてますが・・・。
著者の激押し現行モデルはゴルフⅦみたいです。VWがちょっとドジって叩かれている時期も自身のたくさんある連載の中で「VWはやっぱり神だった!」と毎回のように繰り広げていましたので、なかなか義侠心に熱い人なんだと思います。なんか今回のゴタゴタでVWの本質を真面目に語ろうとする評論家が減ったな〜っと感じてますね。そもそもゴルフⅦ発売時もなんだか中身のない絶賛レビューが林立していただけでしたけども、最近のVWレビューは「GTE」というプラグインハイブリッドのゴリ押しばかりで、書き手の戸惑いがひしひしと伝わってくるんですよね。
そこを福野さんだけは、GTEとか完全に無視してポロGTIやトゥーランを地道に褒めている。他の評論家にはまるで見えていない「VWの正義」がこの人にはマジで『神意』として備わっているみたいです。別に揶揄しているわけではないですよ!!!むしろその逆でVWの良さを「世界のスタンダード」とかいった下衆なコピーに語らせるクソライター連中の資質に懐疑的です。沢村(慎太朗)さんが、「当たり前のことができるライターがほとんどいない!」と嘆く裏側がなんとなく想像できます。
VWに限らずメーカーに「雇われる」形でレビューを書くライターの多くが、ブランドのファンからもアンチからもバカにされるようなものしか書けなくなった・・・。いくら何でも失礼かもしれませんが、「普通さこそがVWの魅力」とかいう結論にVW愛好家が苛立つ気持ちがよくわかる!!!フツーってのはレクサスとかメルセデスとかのことを言うと思うけど・・・この2つのブランドのファンこそがフツーに納得している。
逆に「VWは日本車の10年先を行っている」なんて表現も多いですけど、それって初代ゴルフがFF横置きで日本車に10年先行した!!!って某有名ライターが書いた伝説の「名言」をそのままパクってます。いまでは三菱ターボにアイシンAWのミッションにおんぶに抱っこで、先進イメージはないです(日本向けはアイシン使わないけど)。そもそもなんでインド向けの安価モデル用のエンジンなのに300万円もするの!? ゴルフⅣのときもそうでしたけど、VWってそういうこと「する」メーカーなんですけどね。
それでも福野さんみたいに、具体的な描写をあらん限りの筆致で書き尽くした後に「神だ〜!!!」って絶叫する感覚は、妙に受け入れられるんですよね。VW車の感動って実際のところは日本メーカーで言えばスズキ車やマツダ車に近い。ギシギシ介入するレクサスや、後輪操舵をこれ見よがしに使う日産、粘っこいAWDに辟易するスバルといったハイテク勢の走りにやや首を傾げちゃう人には、おそらくVWは気に入ると思いますよ。「ローテク」というと語弊があるかもしれないですが、何の跳び道具もないけどクルマの印象をハッキリとまとめる技術が優れています。
おそらくコストをかけなくても気持ちのいいクルマなんて簡単につくれちゃうんだろな。けどそんなシンプルなクルマを安く売ると、自動車会社にとっては構造不況に陥る。ムダでうっとおしい機能をどさどさとサプライヤーに押し付けられて、クルマの価格はどんどん膨らむ。クルマは重くなってどんどん走りが悪くなる。それらを全て「安全の為」と言い張ってユーザーを納得させてます。VWとスズキとマツダがそれぞれに「3K」(コスト3000ユーロ以内)でシンプルなクルマ作って60万円で売るのがユーザーにとっては一番幸せなんですけど、それは出来ないようです。これってカルテルじゃねーの!?