シトロエンらしい廉価モデルながらもメチャクチャとんがっているナイスなコンパクトSUVがいよいよ日本に上陸しました。価格も238万円で日本に集結している、カングー、MINI、ザ・ビートル、FIAT500、プリウスといった世界の個性派と凌ぎを削るのに十分なコスパを備えてきました!!1.2L直3自然吸気(82ps)で1170kgの車体を引っ張るスペックも、ライバルと比べてまったく遜色ないですし、なにより運動性能を求めるクルマではないですから・・・。
このクルマの最大の魅力は、個性的なデザインと並んで、新車ながらも80年代車のような独特の風合いが愉しめるキャラクターにあると思います。リアハッチゲートひとつとっても、とてもシンプルな作りになっていて、最近のトヨタやホンダではまずお目にかかれないような、軋み音さえも趣深い「ゲート感」が漂っています。全体のデザインも近未来なのかレトロなのか観る人によって意見が分かれるでしょうし、インパネも変にデジタル化してなんだか「クルマらしくなくなった」とボヤかれる昨今のモデルに対するやんわりとしたアンチテーゼにすら感じます。
新型車の見慣れないインパネに不満を抱くことはしばしばありますが、やたらとデカいセンター・メーターを掲げていた先代のMINIの魅力に取り憑かれた人にとっては現行MINIの「センター」で「丸い」だけのデジタル・ファンクション・ボードはやや興冷めだったりします(現行MINIも新しい世界観を持ってますが)。C4カクタスのインパネは個人的にはとっても好きです。先ほどのライバル車5台はいずれも強い個性を持ったインパネが用意されてますが、それらのクセの強いデザインとはやや方向性が違って非常にナチュラルで健康的です。そしてメルセデスAクラスやアウディA3のようなモノトーン基調で「格調」を強く意識したものとも明確にコンセプトが異なります。
2011年あたりからやたらとカラフルになった日本のコンパクトカーのインパネは、パッションオレンジやワインレッドなどで華飾されたりして楽しいのですけど、なんかデザイナーの世界観に無理やり連れ込まれている強引さに少々辟易することもあります。ノート、ジューク、ヴェゼル、デミオ・・・機能もデザインも頑張っているけど、もっと「普通」にしてもらえるといいなー。ちょっと古めかしくBMWくらいの「さりげなさ」がコンパクトカーにとっての理想かも。ルノーやスバルのような素朴なインパネはちょっと芸が無い・・・。何が正しいとかもちろんないですけど。
C4カクタスはシトロエンが最小限の機能性と存在感あるデザインを両立させることで、新しい自動車ユーザーに訴求するクルマだそうです。これはまさに20年前に登場した初代プリウスのような、86やロードスターとは違った意味で、社会全体にクルマへの注目を高めるカンフル剤になり得るクルマじゃないですかね。別の表現をすると、頭カチコチのジャーナリストが評価するとロクなことにならない「異端児」です。日本のジャーナリストはC4カクタスにも輸入車への定番オベンチャラを使うかもしれませんが、中には「これはダメだ・・・」とか真顔で言い出す輩もいるでしょうね。
別にジャーナリストに言われなくても欠点は明白で、シトロエンのノンターボの廉価モデルですから、自動変速付きMTであるPSAオリジナルの「ETG5」が搭載されていますが、これが投入されて以降(2003年〜)のPSAは外部的な要因もあって絶不調でした。ダウンサイジングターボとの相性が非常に悪いです。ちなみに20万円高い「シトロエンC4」はアイシンAW製のトルコンAT「EAT6」に既に変わっていて、日本車やドイツ車並みに使いやすい「C4」に対して、やや勝手が違う乗り味になる「C4カクタス」という対比になっていてその差は結構大きいです。
アイシンAW製に限った話ではないですけども、トルコンATは最大出力100ps以下のユニットだと微低速時が少々かったるい動き出しになりますから、自然吸気で低トルクならば、がっちりとギアを噛ませる「ETG5」の方にもいくらか理があるのは確かなんですけどね。そんなメーカーの意図を「コストダウン」だけで安易に片付ける「思考停止派」ライターが大人気ですから・・・。もちろんコストダウンの意図も否定できませんけど。
欲を言えば「3ペダルMT」仕様と、フランス車の代名詞になっている「パノラマミックルーフ」あるいは「キャンバストップ」も日本に持ってきてくれるといいですね。間違っても「EVアメリ」のような屋根無し仕様は止めてほしいけど(あってもいいかも)。傷が付きにくい側面のウレタンバンパーなんてサイコーですね。このアイディアはフランスメーカーというよりシトロエンだけにしか出来ない「際どさ」があります(トヨタやVWがやったら失笑?)。生真面目に廉価モデルを作っていながらも、世界で最もアンタッチャブルなブランドとして不気味な存在感を放つシトロエン。C4カクタスはその核心に迫るモデルだと思います。とりあえず限定200台みたいですが、プロパー化する為にももっともっと日本で注目してあげたいモデルだと思います。