イギリスで大ヒット驀進中だと報道されているマツダのCX3ですが、現地のカーメディアではあり得ないくらいに大絶賛されています。日本市場ではディーゼルのみの設定でスタート価格が高めになるのがかなり嫌われて、かなりの販売不振のようですが、小型SUVが爆発的にヒットしていて、ディーゼルエンジンが当たり前のイギリスでは、このクルマがまさにど真ん中のようですね。欧州市場もひと頃の販売不振の時期を乗り越えて、新たに小型SUVの人気に牽引される形で堅調に推移しているようで、さらなる拡販を狙って日独英伊仏西米韓典のそれこそ世界中のメーカーから続々と新型モデルが販売されています(トヨタは完全に乗り遅れたか?)。そしてその最前線に立っているのが2016年のWCOTYでも大活躍したCX3なのだそうです。
そんな新王者・CX3に挑む挑戦者として名乗りを上げたのが、なんと!!アウディQ2とメルセデスGLAという一流ブランドが仕立てる戦略モデルです。デミオに手を入れたに過ぎない設計のCX3にとっては、エンジニアリングで圧倒されそうな、かなりの強敵出現!? 日本の感覚では、マツダがあのアウディやメルセデスと並び立って比較されるだけでちょっと不思議な感じがしますが、驚くことに肩を並べただけでなく、なんとマツダCX3がこの一流ブランドの2台を相手に文句なしにナンバー1の評価を勝ち取っています!!! ちなみにイギリスでの価格はCX3が21000ポンド、Q2が24000ポンド、GLAが28000ポンドだそうで、それぞれ1.5Lディーゼル、1.6Lディーゼル、2.1LディーゼルとなっていてエンジンのスペックとGLAは車格が一つ上であることを考えると、価格設定もほぼ互角なんですねー。これが噂に聞く欧州でのマツダの評価か〜!!!
デミオベースのCX3が、クローズドコースで限界性能を散々に試された結果、MQBを使ったアウディQ2を上回る!!というのもちょっと衝撃的な結果ではあります(ほんとかよ!?)。CX3の短評を読むとclassyなinteriorとgrown-upしたdriving dynamicsが印象的だってさ。これ初代モデルなのにgrown-upなんですねー。確かにCX3LパケならメルセデスのFF群のインテリアにも負けない質感は持ってますし、アウディに対しても全くひけはとらないですけど、CX3を日本でまともに買うと300万円を越えてきますから、メルセデスやアウディの非SUVモデルとあまり変わらないです。このクラス(小型SUV)で、現在日本の頂点にあるのはホンダヴェゼルですが、ヴェゼルHVと比べても同等以上の価格設定で、しかも燃費でだいぶ負けていてディーゼルの経済性が生かせないのであれば、不振も仕方ないところです。
しかも今年になってスズキ・イグニスという新たなる挑戦者が登場してきました。これまでのところスズキの販売戦略が稚拙&燃費に関する不祥事の影響もあって大きなインパクトを残していませんが、150万円前後から買えるクルマから想像される「次元」をはるかに越えたインテリアと走りは驚異的です。さらに燃費もマイルドHVなのに28km/Lという桁違いの数字を出しています。「なのに」はおかしいですね、元々燃費が良いコンパクトカーならばマイルドHVがベストじゃないかという気がします(ホンダがマイルドHV止めたのが不可解ですが)。何といっても車重が850kgとロードスターよりも軽い。モーターのアシストで15kg・mくらいまで最大トルクがスープアップしてあるので、ユニットに関してはアクセラの1,5L(1250kg)と同等の性能が期待できます(91psのスズキ自慢の4気筒も健在)。
CX3はディーゼルのみなので、車重1270kgで最大トルクは27kg・m・・・うーん。これは好みの問題でしょうか。イグニスはCVTのみでパドルが付くのは最上級グレード「MZ」だけ。それに対してCX3は全てのグレードで6MTと6ATが選択可能という美点があります。自動ブレーキなどのセーフティパッケージが付いた「イグニスMZセーフティ・AWD」が187万円。同じ条件の「CX3プロアクティブ・AWD」が281万円。およそ100万円差はちょっとデカいですね・・・。さらにイグニスはシートヒーターまで付いてきます。
マツダにとって予想外だったのが、イグニスの最大の武器がマツダのお株を奪うかのような魅力的な「デザイン」であること。失礼ですが、メルセデスGLAやアウディQ2のようなブランドの底辺でテキトーに仕立てられたクルマ相手なら、よりインプレッシブなデザインをいくらでも主張できますが、フロンテやセルボを彷彿とさせるブランド・オール・デフォルメな渾身デザインを持って来られると、マツダデザインのコンテンポラリーな軽薄さがいささか露呈します。イグニスは簡単に言ってしまうと、「MINI」や「フィアット500」、「VWザ・ビートル」みたいな復刻デザインのクルマです。スズキも「復刻」&「レジェンダリー」を強く意識したようで、インテリアにも熱心に注力していて、これまでのスズキでは当たり前だった既存モデルの流用を、徹底して排除しています。
夏に大きな話題になったルノー・トゥインゴの日本上陸によって、コンパクトカーのポテンシャルが一気に沸騰した感があります。これからは真面目につくりさえすれば、コンパクトカーという偏見無しに選んでもらえる!!非プレミアムなブランドにとってはなかなか幸せな時代に突入しつつあるように感じますが、現行に至るFMCで大ナタを振るったマツダにとってはやや逆風? あくまでマツダのラインナップに相応しい範囲(デザインの統一性)で設計されているデミオとCX3にとっては、これはあまり好ましい状況ではないかもしれません。
上級モデルに近い操作感と多機能を盛り込んだ、パンクチュアルなインパネを、簡易だけど良きアナログ感で包み込んだモノへと、スイッチ類を全て変更するなんていまさらMCや年次改良でできるのでしょうか? マツダの場合はエアコンの噴き出し口などを見ると何やらメルセデスを意識した高級な内装ではあるのですけども、デミオやCX3の車格を考えて、トータルで無理の無いコンセプトに収めるならば、メルセデス的な要素すら浮いてしまいます。コンパクトカーは、多機能ではなく、もっとシンプルで「見た目」に美しいデザインが相応しいのかもしれません。マツコネなんか不要!?
プジョーも新型3008から新しい内装が採用されました。トグルスイッチを並べた機能的なインパネは、タッチパネルによる「多機能」時代に突入した流れに完全に逆行しているかのようです。しかしそれはとても新鮮で、ディスプレーの無い美しさを改めて感じますし、安易に表現するならレトロです。プジョーの次世代インテリアはあくまで映像のみですが、一目見てとても気に入りました。
そして驚くべきことに、このインテリアデザインの方向性はイグニスによってスズキが先取りしています。メルセデスやアウディの質感主義が大手を振っていた流れがあって、それにマツダは意図的に乗りましたが、2016年になってスズキとプジョー(PSA)というコンパクトカーの本家ブランドの牽引によって、あるいはその先達はフィアットやBMW-MINIなのかもしれませんけども、コンパクトカー・ルネサンスとでも呼ばれる局面に突入している気がします。
「プレミアム・コンパクト」路線のメルセデス、アウディ、マツダ、日産(ルノー)。「復刻&アイコニック・コンパクト」路線のPSA、MINI、フィアット、スズキ。そして「国民車・コンパクト」を標榜するVW、トヨタ(ダイハツ)、GM(オペル)、ホンダ。3つの陣営の内で次の10年いや5年を制するのはどの「方向性」なのでしょうか? 5年後に最も売れているのは「CX3」なのか?「イグニス」なのか?「ヴェゼル」なのか?それとも・・・やっぱり12月に発売される「あの」クルマかなー。