英国のクルマユーザーはとっても素敵な人々が多いらしいです。「Octane」や「クラシックカー&スポーツカー」の日本版を読んでいると、ランボルギーニだのマクラーレンだのにご執心の日本の「スーパーカーキチ」とは、だいぶ異質な文化なんだなと気付きます。自国の自動車産業はことごとく外資頼み。ロータスはマレーシアに、アストンマーティンもアラブ地域に、ジャガー・ランドローバーはインドに、いずれもイギリスの旧植民地によって運営される始末なんですけども、ユーザー側はとっても健全みたいです。
もしトヨタが台湾に身売りして、日産がルノーもろともベトナム資本に置かれ、ホンダがタイの政府系ヘッジファンドに買収されたらって考えると、日本にとっても十分にありえる事ではありますが・・・そうなったら日本のユーザーはトヨタ車を買うのかな? さてイギリス国内でもっとも売れているブランドは、日本ではなかなか馴染みがないですが、GM系の「ボクスホール」です。主にドイツのオペルの生産車がOEMされています。さらに同じアングロサクソン系で「欧州フォード」も売れてます。それから欧州の王者「VW」ですね。この3ブランドを軸に、ルノー、BMW、MINI、ヒュンダイ、スマートといった実力派が並びます。
日本車は関税の影響もあってやや高めなんですが、同じ右ハンドル地域で信頼性&動力性能でも日本車は十分に愛されているようで、例えば三菱のランエボを最も愛してくれたのは英国。ホンダ・シビックtypeRの生産も英国。さらに現地生産工場を構える日産もSUV(キャッシュカイとジューク)を中心に人気が高まっていて日系ブランドではトップ。さらに英国で最も売れているプラグイン車は三菱のアウトランダーPHEVとなっています。最近ではマツダがCX3とNDロードスターによって2桁の伸びを見せているとか。・・・なんだか売れている車種を見ても日本市場よりも中身の優れたモデルが多く、売れている理由もとても「筋」が通っている気がします。
何となくドイツ的なクルマばかりが売れるドイツ市場、フワっとしたフランス的なクルマがよく売れるフランス市場、アメリカ人の発注通りのクルマばかりが集まるアメリカ市場、日本的などうしようもないクルマばかりが売れる日本市場。どうしてもその特殊な地域性が先入観を産んでいて、新規参入が難しい傾向にある他の成熟市場に比べても、英国市場はとてもフェアーで「開かれて」いる印象です。
コストのメリットが十分に発揮されるいて中身が伴っているならば、インドやトルコ製造のクルマも受け入れて貰える。タイ製のマーチやミラージュすら相手にしてもらえない日本市場(なぜかメキシコ製の輸入ブランドはそこそこ売れているけど)とは違って懐が広いです。しかしその反面でカーメディアはどの国よりも苛烈だと評判です。アウディやメルセデスといった有名ブランドでもマツダやルノーに負けていると判断すれば残酷なまでにボロクソに言われます。ここも日本と大きく違うところですね・・・。
そんな「実力派」だけが生き残る?英国市場に堂々と殴り込みをかけたのが、正真正銘の日本生まれで日本的デザインに身を包んだスズキ・イグニスです。もうすでにハンガリー(マジャールsuzuki)製のエスクードやインド(マルチsuzuki)製のバレーノは英国に上陸していますが、はるばる1万キロの彼方にある静岡・牧之原市(相良工場)から送られることになりました(もしかしたらどっか海外の工場で組み立てているかも?)。日本価格は138万円〜ですが、同じハイブリッド仕様で英国価格は13000ポンド(約182万円)のようです。
イグニスはHVながらも、車重880kgは軽自動車のスペーシアとほぼ同等という驚きの軽さ。しかも軽ターボ64psの1.5倍くらいの出力のエンジンを積んでいて、なおかつハイブリッドによる加速もついてくるので、スズキの中ではスイフト=スポーツに次いで運動神経が良いクルマなんじゃないでしょうか?アルトターボ/ワークスと比べても遜色無い出足の良さが光ります。スズキ車に乗って何が一番気持ち良いか?というと出足の予想を裏切る上質感です。
改めて「スズキ車の魅力って何?」って訊かれたならば、やはりそれは動き出す瞬間のワクワク感じゃないですかね。一概には言えないですけども、マツダ、スバル、BMWといった一般に良いクルマが多いと認知されているブランドよりも、アクセルフィールに関してはスズキの方が緻密に作られているように感じます。具体的には初めて乗る人でも割とすぐに思った通りに走らせることが可能な、制御しやすいという意味での「良さ」を感じます。「軽い」って素晴らしいことなんだなー!と素直に感じさせてくれるクルマが多いです。もしかしたらミッションを担当するジャトコの技術力の賜物かもしれません。スバルもジャトコとタッグを組んで開発しているみたいですが・・・。
ミッションメーカーとしては大手に数えられるジャトコですが、トヨタ系のアイシンがステップATで躍進していて欧州メーカーに顧客を増やしています。BMWもアイシン製が一部のモデルで使われるようになって、だいぶミッションに起因するショックは軽減されました。もちろんジャトコもルノー・日産を支えていて欧州でも徐々に知られた存在にはなってきましたが、できればHV/EV用のCVTを欧州で売りたい!って思っているはず。HV化が遅れているルノー・日産グループではなくて、スズキ車によって自動車工業が展開する西欧の中心市場に、ジャトコのCVTを売り込みたい!!みたいな思惑もあるのかな。
そんなことを考えながら英国の某ウェブカーメディアを眺めていましたが、車内の画像を見て驚愕。スペック表にはハッキリと「electric motor」を書かれていますが、画像にはマニュアルミッションが映っています!!あれれージャトコと組んでの英国進出じゃなかったのかー。HVのMT車といったら惜しまれつつも廃版になったホンダCR-Zがありますが、スズキ・イグニスもHV&MTがあるのかー!!!これを日本でも売ればいいのに!!!
スズキもギリギリの勝負をしていると思うのであれこれ言いたくはないですが、最上級モデルだけパドルシフトを付けて運転が好きな輩を誘導する戦略が最初からインプットされているので、MT発売しちゃうとその戦略が崩壊しますから、やはりMTを出すなら相当な末期になってからでないと無理なんでしょうね。イギリス人は羨ましいですねー。世界中から素晴らしいクルマが集まってくる。みんな運転が上手いからMT車がまだまだよく売れる。レンタカーだってMT車が当たり前!!
イグニスにはぜひ「日本代表」として英国のカーメディアに一泡吹かせてほしいですね!!イギリスでは良質なコンパクトカーが良く売れるみたいで、地元のMINIだったり、ドイツのスマートやVW、ボクスホールのA/Bセグ車。それからフランスのルノーやPSAのA/Bセグ車。BMW・Z4やマツダロードスターなども人気(Z4もMT車に乗れる!!)。最近では日産ジュークとマツダCX3が、日本車の存在感を高めているそうですが、英国かぶれしたデザインの両車とは一風変わったイグニスですから、そのオリエンタルなデザインで「和風ブーム」でも打ち立てて欲しいものです。これこそが本物のクールジャパンじゃないでしょうか?