豊田章男社長の号令のもと「トヨタはいいクルマを作るんだ!!」という曖昧なのにやたらと力強いメッセージを発信しています。最新の自信作はプリウスのSUV版となる「C-HR」。すでに街中でもディーラー名が側面にハッキリ描かれた試乗車が走っています。こんな派手なペインティングしちゃってますけど、これは試乗車が中古車市場に流れるのを阻止するブランド保護策なのかな? とりあえず見た目にも運動神経が良さそうなスタイルで、キャビンのスペースを重視した北米向けSUVの「もっさり」したスタイルがどうも苦手な人からも選ばれそうなルックスをしてます。
このクルマは、日本市場ではヴェゼル(ホンダ)を、英・仏市場ではジューク(日産)を、ドイツ市場ではCX3(マツダ)を、日本メーカーが先導して切り開いた感があるいわゆるBセグのクロスオーバー車市場で、先駆車をみんなまとめて狙い撃ちする「リーサル・ウエポン」です。何が「リーサル」でスゴいのか!?というと、先駆モデルがフィット、ノート、デミオを徹底改造した従来のBセグ・クロスオーバーに対して、Cセグ以上のクルマで使われる方針のTNGAプラットフォームを持ち込んで、限界値の高いクルマに作り込んで投入してきたことです。
プラットフォームのレベルで何が変わるの?という気もしますが、現実に下位モデルと共通シャシーを使っているスバルWRX・S4やBMW3er、あるいは現行モデルから下位と共通になったマツダアテンザを検分すると、レクサスIS、日産スカイライン、ジャガーXE、メルセデスCクラスといった上位モデルと共通のシャシーを使うモデルに対して、いろいろと苦しい部分が見え隠れします。現実にS4と3erは乗ってみても、今の基準で考えたときに「いいクルマ」という手応えはやや乏しい感じがしますし、アテンザはもはやアメリカン・ビッグサルーンに片足を突っ込んでしまってます(とにかく曲らないなー)。
トヨタはM&Aが横行したバブル後の自動車産業の中で、ホンダとともに「孤立主義」を採り、単独でランクル、カローラ、プリウスといった主力車種を年産40万台ベースで売る巨大メーカーになりました。日産がルノーと共同シャシーを使う「ノート/ジューク」や、マツダがフォードグループ内の共通シャシーで作る「デミオ/CX3」といったグループ全体でコストを優先させた「低質素材車」に対して、トヨタが最先端の素材を注ぎ込んだプリウスと同等以上のクオリティを持つという「C-HR」ですから、よっぽどトヨタがヘマしないかぎりは、ジュークやCX3に負けるなんてことは無いでしょう。トヨタはライバル車を徹底的に分解して分析するらしいので・・・。
ジュークやCX3は、日産やマツダがそれぞれに工夫を凝らしていて、見ていて楽しくなってくるクルマなんですけども、実際に走らせてみるとハンドルを切った瞬間に「素性」が現れます。これはやっぱりBセグだな・・・って。同じBセグの輸入車相手ならば非常に好感が持てる仕上がりなんですけども、ゴルフGTIやBMW3erといった上位セグメントの定番モデルに勝てるか!?というと・・・うーん無理です。もしかしたら私のクソな先入観のせいかもしれないですけども、やっぱりGTIのバランスの良さだったり、3erで感じるクルマとの不思議な一体感には確実に及ばない部分が見えます。
トヨタC-HRは「その部分」の進化がとりあえず凄まじいです。ダブルウィッシュボーンのリアサスは想像以上に効果が大きくて、リアはスバル車みたいな粘りを発揮します(スバルはフロントに課題あり?)。それでいてスバル車やBMW車に顕著とまでではないけど、やっぱり不満が集中するフロントのややガサツな挙動に対しては、従来モデルに対する強烈なアンチテーゼになりそうな意欲的な仕上がりです・・・。SUVってこんなにストレス無しにフロントが動くのか!!これまでスポーツカー的なハンドリングを売りにしてきたマツダも、スカイアクティブ以降のマイルド路線では、もはや敵ではないかも知れません。アテンザのワゴン(ホイールベースが短め)ならまだ良い勝負かな!?
そしてオチなんですけども、これだけのクルマが日本では全く理解されない・・・ちーん。350万円するならもっとインテリアに個性が欲しい(Gはなかなかなんですけど)!!とかケチが付くんでしょうね。高速巡航派にとってはターボ(ウルサイ)もHV(伸びない)などなど、どちらもイマイチなユニットにケチが付くのかも。もっとも350万円で走りの愉しさを追求するならば86があるし・・・。レスポンスにこだわるならばどう考えても自然吸気のスクエア&低重心を実感できる水平対抗は合理的な選択です。
スポーツカー・テックな設計のクルマを街中で真顔のまま乗れない!!というシャイな常識人にとっては、C-HRは選択肢として嬉しいとは思います。86の場合は着座位置もアブノーマルだし、固めのハンドリングやちょっとぶっきらぼうなミッションから伝わるスポーティなインフォメーションのバイブス以上に、車体から伝わる「スチール」感がなんともスパルタンな雰囲気を出しています。ただこのクルマはとてもじゃないですが落ち着かないですね。
86はちょっとシャープにハンドル切れば、クルマのヨー運動を越えたスライドモードに突入してヒップポイントから緊張感が伝わります。こういうクルマが素晴らしい!!ってのは安全過ぎるクルマで溢れかえっている日本らしい意見なのかも。1人で走るだけなら最高のクルマだな・・・。けどボッチドライブの趣味が無い人にとってはニーズに合わないと思います。他にも中型以上の日本車(250万円以上?)ではインテリアの基本は「モコモコ」で包まれ感重視なんですけど、86はその真逆ですね・・・助手席に座る人に訊くとデートカーとしては「無し」なんて厳しい意見も。
トヨタが豊富な資金力にものを言わせて、本来ならばBMW、マツダ、プジョー辺りがつくりそうなクルマを「トヨタ・ブランド」で出してしまった!!FF車の設計ではおそらく最高レベルだと思われるTNGAを使い、ドイツのツーリングマシンが挙って使っているザックス製ダンパーを採用して、時間とカネをかけて作った!!と盛んに宣伝しています。もうBMWもマツダもプジョーも用無しになっちゃうのかなー。