日本で売れるSUVの条件
自販連から10月の国内販売統計が出た。9月はC-HR、ヴェゼル、フォレスター、エクストレイル、CX-5の5ブランドが同時に5000台超えを果たすなど、SUVはまだまだ人気だなーと思っていたのですが、10月に5000台以上で踏みとどまれたのはC-HRとヴェゼルのみでした。結果を見せられるとまあ納得というか、C-HRとヴェゼルは非常に扱いやすいサイズに収めてあり、それでいて車格が下に見えない存在感あるエクステリアが印象的で、デザインだけで文句なしの「名車」と言っていい部類ですねー。トヨタとホンダが世界からずっと注目され続けるのも頷ける。
グローバル車は日本で敬遠される!?
それに対して大きく台数を減らしてしまったエクストレイル、CX-5、フォレスターは、もしかしたら何か特殊な事情があるのかもしれませんが(部品が足りなくなったとか)、日本で定着するには少々課題があるような気がします。もちろん海外市場ではこれらのお3台の方がC-HRやヴェゼルよりもずっと評価が高いクルマであり、日産、マツダ、スバル共に決して失敗作だとは思っていないはず。エクストレイルとCX-5はどちらも2013、2014年頃は月7000〜8000台という販売を記録し、日本のSUVブームを強く印象付ける存在ではあったのですが、日本においては一時期の勢いを失っているのかなー。
欧州では「ORIGIN OF SUV」な日産
エクストレイルは欧州ではキャッシュカイと言われ、英仏ではこの10年くらい常にSUVのベストセラーとして販売ランキングの上位(日本車では最上位)を占めていて、欧州におけるSUVブームの火つけ役は完全に日産というのが定説。ドイツを始めアウトバーン地域ではSUVは売れないとか予測されてましたけども、BMWが2000年にX5を、ポルシェも2002年にカイエンを販売。あとは2011年に出たレンジローバー・イヴォークの成功など、欧州の高級ブランドが主導した上位モデルの改革と、日産が大衆向けSUVキャッシュカイ、ジュークの2車種で大成功を収めたことが決定打になりました。PSAやVWグループも慌てて大衆SUVを開発・・・。
Gコントロールって・・・
日産は中型車以上のフルモデルチェンジにおいては必ずと言っていいほど世界初の新機軸を持ち込んできます。マツダが大々的にアピールして実用化しているGコントロールも元々は現行エクストレイルのデビュー時にすでに採用されていた技術でした。キャビン容量重視でグローバルで売れるSUVとして開発した結果、車高は高くなり乗用車と同じプラットフォームのシャシーでは少々足元が心許ないという瑕疵が露呈します。SUVを開発する他のメーカーにとっても同じ条件ではあるのですが、日産とマツダのソリューションとなったGコントロールは高速道路での使用を前提とした『SUVタイプのツアラー』としての成長を青写真として描いた上での選択であり、欧州で正しく評価されるためにも譲れない部分だったと思う。
トヨタ&ホンダのうまさ
しかしトヨタやホンダの考えは全く別にあったようで、走りがキツイならシャシーそのものの容量を上げる、もしくはボデーは可能な限り小型化し、車高と重心が低い設計を工夫して走りのバランスをとることを優先しました。Gコントロールのようなギミックに頼る設計は、それらの基本要素を整えた上でもまだ足りない部分をいくらか補強できる「気休め」程度に思っているようだ。「技術好き」のせいなのか「サプライヤーに主導権取られすぎ」のせいなのかわからないけど、日産やマツダのSUV戦略は少々破綻を見せていると思う。
CX-5の成功は諸刃の剣!?
CX-5はこの5年でグローバルにおいて最も売り上げを伸ばしたSUVのシリーズであり、おそらく乗用車全体でも登場から5年以内に年産40万台を超える大ヒットシリーズになった例はこのCX-5の他には今話題のテスラ・モデル3くらい。CX-5の成功がなければ独立系自動車メーカー・MAZDAの存在は相当に危うかったと思われる。日本、中国、欧州、アメリカ以外にもカナダ、オーストラリア、ロシアで販売好調であることが株主説明会などで繰り返し説明されている。
なんだかよくわからない・・・
アクセラと並んでブランドの貴重な稼ぎ頭となったCX-5を大事に育てる姿勢は非常に伝わってくるけど、ちょっと過保護な気がしないでもない。前述のGコントロールはver2への進化を果たし、2代目に移行してさらなる「サルーン代替」のラグジュアリーSUV路線を追求していて、ハンドリングやアクセル&ブレーキフィールは少しずつ大型SUVのそれに近づいている。ミッションはいい感じだけどもこれがCVTだったらトヨタ!?みたいな雰囲気は当然ながら・・・マツダに求めていたモノとは違う。これだけの大成功モデルゆえに過度に「守りに入っている」のは仕方のないことだけども、日本市場の販売に関しては全く「守れていない」状況だ(生産面で問題があるのかもしれないけど)。
モデルに個性 と ブランドに個性
マツダもトヨタ(レクサス除く)も日本市場で展開しているSUV/クロカンはそれぞれ3車種。CX-3/5/8のいずれも「MAZDAが作ったSUV」というある種で漠然とした高品質イメージはある。それに対してトヨタ主力のC-HR/ハリアー/プラドは、3車種それぞれに個性が際立っている。デザインも全く統一する意思がない。不思議なことに車格が下のC-HRが最も端正にデザインを作り込んでいる。下はデザインで売る。上は素材で売る。マツダの経営陣は自らの成功に自信を持ってはいるだろうけども、トヨタのSUV勢と単純に比較した時に絶対的に「いいクルマを作っている!!」と胸を張って言えるのだろうか!?
ディーゼルエンジンが泣いている・・・
もちろんマツダのマーケティングが決して悪いとは思わないし、トヨタとの販売力の差を考えれば十分に健闘しているのだけども、トヨタのSUVの配置はかなり緻密に計算されている。FJクルーザーの後継も企画されるだろうし、ランクル70の復刻など、トヨタの独壇場と化しているクロカン部門。ここにマツダのディーゼルをマッチングすれば、ジムニーをも超える傑作車ができそうな気がしないでもない。もしかしたらトヨタと水面下で交渉中なのかもしれないけど。
CX-5がもたらすマツダの停滞
近年のマツダ車はどれも非常に優雅だ。しかし愛着が以前より高まったか!?・・・となるとちょっと話は別かも。歴代のマツダ車は非常に愛されている。スポーツカーは伝説的な名車ばかり。MZRエンジンは直4において世界の頂点を極めていたし、世界のどのメーカーよりもエキサイティングなハンドリングがあった。・・・と考えるとマツダを選ぶ理由は2011年以前よりもむしろ減っている。マツダの魅力が見えにくくなっているけども、CX-5は収益の柱ゆえに大きくいじることはできないだろう。そこで真逆のキャラを持った「裏」モデル(CX-6!?)なんかあるといいけど。さてトヨタは北米で売れているRAV4が『増税前商戦』の切り札として来年の上旬にも投入されるようだ。マツダもCX-4の国内投入を準備しているけども・・・。
SUVはトヨタの合理化から生まれた
現在の本格化する北米SUVブームの源流は、バブル期にラダーフレームで作られていたクロカンのようなスタイルのクルマを、乗用車向けモノコックシャシーを流用して作ってしまおう!!というトヨタの合理的な戦略から、カムリをベースとしたハリアーが1997年に登場したことに遡ります。その後日本メーカーが単一プラットフォームで複数モデルをカバーする戦略を採用すると、とりあえずモノコックシャシーのSUVを作ってしまおう!!という風潮が広がります。
フォレスターとは3万ドルの高級SUV
ハリアーの成功と、現在のSUVブームをブリッジする役割を担ったとされるのが、2000年代後半にアメリカ向け設計を大々的に取り入れて奇跡的な業績回復を果たしたスバルのフォレスターでした。スバルの北米での戦略は欧州メーカーや地元メーカーが満足に作れないAWD車を手ごろな価格で提供する『AWD専門ブランド』で、世界的な豪雪地域である日本で培ったAWD技術を最大限に活用できる縦置きシャシーを使った大衆モデル、つまりカイエンやX5と同等の機構が3万ドルで買えるという非常にわかりやすいブランディングではあります。ちなみにX5のベースグレードの40iだと6万ドルします。
クルマ選び・・・は自由なんだけどさ
新型になり、デザインはC-HRやヴェゼルに比べるとスタイリッシュではなく、ファミリーカーとして奇抜さを排して世間体を守るコンサバなスタイルがとられました。確かに隣人がC-HR、ヴェゼル、X2、MINIクロスオーバー、3008を選んでいる白髪混じりのオッサン&オバさんってのは、どーなんですかね、もっと落ち着けよ!!って気がしないでもない。実家の隣の夫婦が、旦那が523iで奥様が現行のVWポロを買ったみたいですけど、買う際に試乗とかしないのかな!?って不思議に思う。どちらもドイツ車とは思えない軽薄なエキゾースト、パワー不足で切り返しが難しくビルトインに入れるのに数分かかっているのを、運悪く待たされたりすると「運転下手ならフーガにしておけよ・・・」と言いたくなる。
みっともない国民性を見抜いているトヨタとホンダ
・・・で非常に顰蹙を買いそうな結論なんですけども、日産、マツダ、スバルは日本の自動車ユーザーをあまり考えずに開発している。それに対してC-HRとヴェゼルは・・・良くも悪くも日本のユーザーの「軽薄」な志向を完全に読み切った設計と言ってもいいかもしれない。技術ベースでクルマなんて考えないし、そこそこ見栄が張れるクルマを本能的に買う。自分を客観視することなく50歳過ぎたオッサンが平気でC-HR、ヴェゼル、1シリーズ、3シリーズ、ポロ、Aクラス、CLA、A3、Q2とかわざわざ選んで乗ってる。いい加減に周囲からバカにされていることに気づくべきだけども、それをあえて気づかせたりはしない「和」の心が主流の日本・・・そこまで読み切ってSUVを設計/販売しているトヨタ&ホンダはスゲーなと思う。
「ホンダもメルセデスGLAを選ぶ輩にアレコレ言われたくはないだろうに・・・」
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