トヨタにとって必要な戦略
アメリカ市場でもっとブランド全体にエッジを出すためにトヨタが送り込む新型スープラは、欧州、中国、日本の各市場でもトヨタのモータースポーツ及びスポーツカービジネスへの取り組みをアピールするビッグプロジェクトとして機能するんだろーな。トヨタのくせに余計なことするな!!って批判もあるのだろうけど、同じような企画と韓国や中国のメーカー、あるいはホンダ、マツダに先に成功されてしまっては、完全にあとの祭だ。アメリカ市場ではポルシェとBMWにライバル意識メラメラのヒュンダイが、いよいよ日本にも再上陸するらしい。ネットではすでに「韓国車をわざわざ買うバカはいない」みたいな子供な意見が飛び交っているけども(これが日本の現状)、そーいう人に限って韓国製タイヤを標準装備したドイツ車に乗ってたりするから始末が悪い・・・。
最大目標は北米市場
スープラの登場のタイミングでとりあえず障害になるような同じカテゴリーのクルマは皆無。トヨタのマーケティング部門は相変わらずとても優秀だ。北米市場では直6モデルだけをラインナップしていて、スポーツカーとしての「格」を重視しているのがわかる。狙いはアメリカ車のシンボル的存在であるシボレー・コルベットとガチンコ勝負によってトヨタブランドへの求心力を高めること。全く歯が立たないのでは話にならないので、60000〜65000ドルに設定されているコルベット(Z09やZR1は除く)に対して、GRスープラの北米仕様は直6のみの設定で50000〜55000ドルに設定して一定レベルのシェアを奪うことは前提のようだ。
昭和マインド
気筒数から考えれば8気筒のコルベットが格上だが、ユーザー視点の現実的な選択肢としてはかなりいい勝負になっていると思う。他に定番のスポーツモデルとしてはポルシェ911シリーズがあるけども、こちらの北米価格はいわゆる「91100ドル〜」であり、価格はコルベットの特別グレードに当たる「Z09」や「ZR1」に匹敵する。、今後発売が予想される高性能版のスープラもこの価格帯になりそう。開発担当の多田哲哉さんが全ての開発動機はトヨタのクルマを北米市場が求めてくれていることだ!!と言っていた。日本メーカーは北米市場に求められれば何でも作りそうだよなー・・・三菱も撤退を白紙に戻したし、日本ではとっくに廃止になっていたけども、北米では2017年くらいまでランエボの販売を継続していた。北米市場から「作れ!!」の声が強まればすぐに復活しそうだ。
BMWに作らせる意味
日産フェアレディZもMAZDAロードスターもメイン市場はずっと北米のままシリーズは長く続いている。近年は特にヒットしているということもないのだけど、北米のファンを喜ばせたいという「昭和」なマインドが今も日本の自動車メーカーには残っているのだろう。トヨタも同じ気持ちがあっただろうし、実際にプロジェクトとして動き出すとそこはトヨタですから、絶大な投資効果を北米でも日本でも欧州でも生み出すポテンシャルをもつ企画へとしっかり煮詰めている。「BMWに丸投げ」も全部計算づくなんだと思う。BMWのモデルをベースに車両価格が算定されるから、先代のスープラと価格面で比較されることもあまりない。
ライバルを殺しては意味がない・・・
OEMではなくトヨタが自社開発をしたらどーなっていたか・・・。社長自らが率先して旗振りをしてスポーティなトヨタをアピールする今のトヨタはヤバイ。あの情熱のままに本気のGTカーを作ったら、GT-Rや911ターボを超えるスーパースポーツモデルとなった新生スープラができただろう。そうなると、もうコルベットだとか911だとかことごとく存在意義を失ってしまうような一大事になる可能性もあった。まあスープラがあろうがなかろうが、すでにコルベットや911に特段の意味なんてないのかもしれないけど。そこに体力バリバリのトヨタが突入して来たらさすがに危険だ。BMWを下請けに指名するくらいがちょうど良かったんだなー・・・・と思う。
スポーツカーの完成度
911よりもかなりリーズナブルで、北米では50000〜60000ドルくらいで販売されているのが、ポルシェ718ケイマン/ボクスターですが、現行モデルには2.5Lの水平対向4気筒ターボが充当されている。ミッドシップのスポーツポルシェが日本でも700万円くらいで楽しめること自体の商品性は否定しませんけども、アルピーヌA110が出てきてどうもケイマンの方向性に疑問が出てきた・・・つーか完全にバレた!?ライトウエイトスポーツはポルシェの専門外だったってことが。市場が示す通り、ライトウエイトスポーツはロードスターと86/BRZで大凡は十分であり、より本格的なメカを求めるユーザーにロータス、アルファロメオが赤字覚悟で供給しているけど、そこに理想を突き詰めたアルピーヌA110が出てしまった・・・。
既存2シーターの不甲斐なさ
ポルシェのブランド力は盤石だし、4気筒ターボで300psの718の標準ユニットは音以外にはそれほど気になることはないし、日本価格でも4C、ロータスエリーゼ、アルピーヌA110と同じくらいの価格に設定されているフラット4ターボのケイマンなんだけど、庶民の感覚で700万円使って楽しむ壮大な趣味の対象としては、いまいち頼りない感じが拭えない。月に10万円くらい使う趣味は男なら誰でも持っているものだし、年間120万円の趣味予算に、元々の自動車予算(交通費)があればギリギリなんとかなるのが700万円くらい。しかし結果としてこれら2シータースポーツは、メルセデスやBMWが仕掛ける「A45AMG」や「M2」に遅れをとった。勢いづいた両ブランドはこの価格帯に限定モデルを次々と送り込んでいる。
トヨタは自信に満ちている
北米市場に取り残されたコルベットのライバルに名乗りを上げ、日本市場で圧され気味な700万円クラスの2シーター車の復権を目論む。構図としても実に「正義」なのだけど、「トヨタイムズ!!」とかいうひたすらに記号的消費を促進するようなCMを流す戦略を堂々仕掛けるふてぶてしさまで含めると、自己選択型の人間には若干の嫌悪感が芽生えるかもしれない。「オレはバカじゃない!!」と思っている人は、「ストーリー」を語るトヨタに気づけばとりあえず背を向けたくなる。そもそもそんなものは「ストーリー」ではない。何の宣伝戦略もなく、赤字を続けるアルファロメオやロータスが正しいという気もないけど・・・。
今こそ2シーターなのかもしれない
10年くらい前には「トヨタはもう2ドア2シーターなんて作らない」とか言われていたけども、いつ頃からだろうか2シーターに意味が出て来た。・・・というより誤解を恐れず言ってしまうと4シーターのスペシャルティカーはダサい。メルセデスやBMWが悩みながらも売り続けている2ドア4シーターは、今もクルマにときめいている人々の心を掴んでいるとは言えない。レクサスRCの失敗を見てトヨタは悟ったのだろう。スポーツでキャラを立たせるならば2シーターはやむなしだ。2シーターだからこそ「記号的消費」を呼び込むことができる。
2シーターを売る魔法
S660、コペン、ロードスター、ケイマン、ボクスター、4Cと700万円くらいまでの価格設定の2シーターが複数ある。どれも販売はパッとしない。どれもレーシング用モデルとして通用するピュアな設計を持つけども、サーキット仕様車が2シーターなのは当たり前のことだ。サーキット愛用者という限られた市場に向けてそれぞれに作り込みはされているのだけど、トヨタはいよいよ「乗用車としての2シーター市場」というものに気づき始めているのかもしれない。スープラがまとうサイズ、ラグジュアリー、スポーティ、6気筒のさじ加減は2シーターを乗用車として拡販することを狙った「実験」みたいなものなんだろーな。
ポルシェが動いた
トヨタのただならぬ怪気炎を見て、ポルシェもすぐに動き出した。ケイマンとボクスターに6気筒が復活するらしい。6500rpmにピークがあるフラット4ターボも、ポルシェの想いが詰まったスペシャルなユニットだったと思うけど、ポルシェの看板はもっと重く大きなものだったようで販売が落ち込んでいる。2シーターは「ダサい」と思われたら終わり。200万円台に収まるS660、コペン、ロードスターはあくまでリーズナブルな価格で勝負するモデルであり、ボクスター、ケイマン、4C、A110、スープラ、Z4は700万円の価格に見合う内容が求められシビアに審査される。Eセグメントの高級サルーンを買う価格で一回り小ぶりの2ドア2シーターを選ぶ「スタイル」は、道路/駐車場事情を考えても日本でも意外に火がつくんじゃないかと思う。割り切った設計はやはりクールなのは間違いない。