日本車がとっても凄いことになっているが・・・
トヨタ・スープラが復活、スカイラインが再びエゴを取り戻し、MAZDAが世界初となるエンジンを市販。日本メーカーが「新しい段階」への突入を表明した2019年は長く記憶される年になるかもしれない。2000年以降の業界再編の荒波の中で、あらゆる批判に耐えつつも堅実に売れる経済性重視のクルマ作りで他を圧倒したトヨタ。そしてトヨタの勢いに引っ張られるように、経済性を強調しつつデザイン面でのブランディングを模索し続けた日産とマツダ。
平成の日本メーカー
日本メーカーは2000年以降あまりに保守的で手堅い戦略を取り続け、気がつけば日本経済は停滞の20年へと突入。あまりにも国内向け、アメリカ向けに特化したクルマ作りは、決して将来的に「上ブレ」を期待できるものではないけども堅実な商売なのかもしれない。今後の10年間で日本に海外からリーズナブルなモビリティサービスが上陸して、国内の新車販売市場を打っ壊し、アメリカ市場がトランプ大統領の強権的な政策のリスクに晒され利益を見込めない構造に変わってしまう恐れはゼロではないけども、それでもアテのない市場拡大を目指して注目を集めるデザインの新型モデルに社運の全てを賭けるギャンブル経営などよりはよっぽど健全だ・・・。
新しい局面だが・・・
主要市場でそれぞれシェアを確保するために仕向け地ごとに仕様を細かく変えて、ニーズに応える日本メーカー伝統のクルマ作りは、企画・準備の段階では多くの手間がかかるだろうけど、一旦完成して売れ始めてしまえば競争力は非常に高い。一方でそんな日本メーカーの努力は、多くのクルマ好きにとっては「地味」な活動に映ってしまう部分もある。スープラあるいはGT-R、スカイラインへの資本投下には「創る」という活動を通しての自己ブランディングの意味合いが強いのだろうけど、いよいよ多くの日本メーカーがより「派手」なことをやろうとしている。しかしそのメッセージは市場のユーザーに刺さっているのだろうか!?
マツダという非日本的な存在
マツダが注目を集めている。カーグラフィックは「MAZDA3は本物か!?」みたいな相変わらずな上から目線だけども、この連中がおっしゃる「本物」ってどれだよ!?VWゴルフとかなんですかね。日本のカーメディアにとって4代目ゴルフが初代フォード・フォーカス(当時のMAZDA3ベース)にボロ負けした事実はすでに抹消されているのだからまったくお話しにならない。
逆張り精神!?
「デザインや機能面でMAZDAの理想を突き詰めた。」という部分では多くの人が納得している。そのコンテンツの5年後の評価を現段階で見定めてしまおう!!というカーメディアの意欲的な活動には頭がさがる。しかし未来の評価はどうあれ、マツダが自らの存続を賭けてトヨタやホンダができないことを意図的に選択しているギリギリで勇気ある戦略は、唯一の生き延びる道じゃないかとすら思う。成功するかどうかももちろん興味深いけども、自動車産業をめぐる状況がこれだけ不確定要素に溢れている時に臆せずに挑むMAZDAは素直にカッコいいと思う。
日本のものつくりは笑えない・・・
先日、同じ東京だけど離れて暮らす家族と外で食事をする機会があったのだが、革製品を扱うファクトリーブランドで企画を担当する妹に、この夏にプライベートで愛用しているレザーのトートバックを見せた。スコットランドのハンドメイドを売りにしている某ブランドのもので、夏のジャケットを移動中に収納しておくのにちょうどいいサイズで、一枚の革で裏地もなくできている素朴で繊細な質感は、日本のブランドにはないものだ。妹に「なんでそれにしたの?」と訊かれ、「○ーターにも◯ニアリにも無さそうな作りで、周りと簡単に被らないのがいい」と答えると・・・「こんなシンプルなデザインでは、ウチの会社では絶対に企画会議は通らない!!」と断言していた。
オッサン役員のフィルター
決定権や重要な意見を言えるポジションのオッサンが4〜5人だろうか!?もはや現場の企画者やデザイナーは、前衛的なデザインや企画を準備したところで、この強烈な「フィルター」を突き抜けるのは不可能だ!!と諦めているようだ。自動車メーカーにも同じことが言えるのかもしれない。トヨタは数年前に「役員によるデザインチェック」の大きな弊害を認識し、通過の条件を大幅に緩和したらしい。その結果生まれたのがシエンタだったのだろうけど、さすがにフラッグシップのクラウンのデザインについては旧来の「フィルター」が全力で機能してしまい、強烈な逆噴射をしたとしか思えない。決してメーカーの「役員審査」が悪いと言っているわけではない。クラウンを買う層のセンスに合っていればそれでいいのだろう。和田智さんのように納得するデザインがしたいから日産をやめてアウディに移籍するのは自分の能力に自信があるデザイナーなら当たり前のことなのかもしれない。
国民性で理解する
「世界価値観調査」なる統計がある。世界の様々な国の平均的な価値観を数値化したものだ。「世俗的・合理的 or 伝統的」と「生存的 or 自己表現的」の2つのパラメータで構成されたマトリクスに様々な国の価値観をポジショニングしている。これによると日本は、世界のほとんどの国よりも「世俗的・合理的」な傾向があり、最も宗教的や民族的な価値観である「伝統的」ではないとされる。明治維新や戦後にガラリと主義主張を変えた民族性をストレートに批判されている気がしないでもないが・・・。
日本とスウェーデン
日本と並んで最も「世俗的・合理的」な傾向があるのがスウェーデンだそうだ。二度の大戦や冷戦をソ連に近い地域で生き延びてきた。EU加盟国ながら自国通貨発行権を確保していて個別の金融政策が可能であり、ボルボやイケアなど国際的に活躍する企業も抱えている。EU内でもドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペインに次ぐGDP規模を誇る。スウェーデンはどこか日本に似たしたたかさを感じるが、それが大きく「世俗的・合理的」な傾向へ振れている要因かもしれない。
日本がミニバン好きな理由?
しかし日本とスウェーデンではもう一つのパラメータの振り幅が大きく違う。「生存的 or 自己表現的」において日本はちょうど中間に位置しているのに対して、スウェーデンはすべての調査国の中でも最も「自己表現的」の傾向が強いらしい。クルマのデザインをこの価値観の国民性に当てはめるのは強引かもしれないが、日本では合理的なパッケージであるミニバンの登場は、この国民性に合致しているのだと思う。そしてミニバンで圧倒的な勝利を納めているトヨタのクルマ作りは日本市場で売るに当たって極めて明晰で妥当な仕事なのだろう。だから「役員審査」が悪いとは思わない。
マツダが売れるであろう国
おそらくマツダのクルマはスウェーデンで売れると思う。実際にスウェーデンと同じように「自己表現的」な傾向が極めて強い国であるカナダ、イギリス、デンマークなどでは軒並みマツダの評価が高い。前田育男氏がデザイン部門の指揮をとって製品を販売し始めた2012年以降にさらに高まっているけども、それ以前からこれらの国ではマツダ車の評価は高かった。これまでも他の日本メーカーよりずっと「自己表現的」であったからだろうか!? マツダの役員やデザイナーが様々な媒体で登場するけども、どの人も一癖も二癖もありそうな独特のファッション感覚を持っている。トヨタとは違う「価値観」を持つ人を役員や主要モデルのチーフデザイナーや主査に抜擢して、より前衛的なクルマ作りを志向しているのだろう。
日本メーカーのブランディングが「?」な理由
日本市場で「定点観測」している立場として、トヨタもマツダもなにやら新しいブランディングを意図していることは十分にわかる。しかしどこか「クリティカル」とは言えない歯がゆさがあるのも事実だ。ファンだとかアンチだとかいう話ではなく、フラットに両者のブランディングを見ていて期待こそするものの腑に落ちない部分がある。断定的で恐縮だけども、トヨタは日本市場向けのブランディングが的確過ぎるあまりに、その製品は結局のところ「生存的」でも「自己表現的」でもないフラットな落とし所に向かって行くが、そこから強烈なメッセージを「違和感」あるいは「インパクト」として受け取ることは難しいのかもしれない。ホンダや日産もこれに近いところで足踏みしている!?
キレイ過ぎて乗れない!?
それに対してマツダはとても「自己表現的」なプロダクトを作っている。しかしその価値観はもともとの日本の平均的なそれとは大きなズレがある。またまた断定は語弊があるかもしれないけど、スウェーデンやカナダなどの価値観を持つ国で成功するクルマ作りなのだろう。前田さんの理想をさらに先鋭化させた第7世代のスタートを飾るMAZDA3のデザインは、あまりに「自己表現的」過ぎて、少々尻込みしてしまうオッサンの気持ちもわからないでもない。一体このクルマにどんな格好して乗ればいいのか!?経験したことがない不安がそこにはある。そしてそれは「インスタ映え」を価値観の尺度に取り入れているはずの若い世代にとっても不回避な問題だ。「インスタ映え」が示す総体はあくまで鑑賞主体でしかないが、実物のMAZDA3はそのような単なる置物ではない。運転して移動して、クルマとドライバーが一体化することで初めて価値が伴うものだから。
日本市場に響くものは・・・
それでは・・・日本市場に最も「クリティカル」に届く自動車メーカーのメッセージとはどんなものか!?極めて強烈に「世俗的・合理的」に偏った価値観を持つ国民性に大きく響くものとは、「黒船」のように外部からやってくるもので、その価値が客観的に十分に認識できるもの、あるいはすでに非常に高く評価されているものなのだろう。アメリカ文化の受容のみならず、欧州サッカー、メジャーリーグ、NBAなどを熱心に見るファンが多いのも国民性に由来している!?すでに価値があるもので、外国からやってくるものに日本人は弱いとすると・・・つまりそれはメルセデスやポルシェなのだろう。そしてアメリカで大きな成功を収めつつあるテスラもまた強烈なメッセージとして近い将来に日本市場に届くのだろう。「テスラファン」とかいうニワカな感じしかしない連中は国民性が生み出しているのだ・・・。マツダが欧州や北米で驚異的な成功を収めることができたなら、その勢いは堰を切ったように日本市場を覆うかもしれない。マツダの幹部が立案した戦略は日本の国民性を見越した上に成立しているのだろう。