「ポルシェとトヨタの小型車くらい違う」
ちょっと前のことだけども、(2019年)10月10日に行われたサッカーW杯のアジア予選で、日本がモンゴルに6-0で勝利したあとにモンゴルの監督(ドイツ人)が「(日本とモンゴルは)ポルシェとトヨタの小型車くらい違う」と皮肉を漏らしたことがちょっと話題になった。ドイツ人のこの種のコメントはあまり例がないので、非常に興味深いものだったけども、多くの日本のオッサン達にとっては、「ほー・・・言ってくれるじゃねーか!!」と火をつける内容だったようだ。
日本のオッサンが一斉にマジギレ
ヤフースポーツのトップニュースにそんなアジり気味の記事が載ってしまったら、まあ暇でしょうがないヤフコメ・オッサン達が大挙してやってきて、ツッコミどころが満載の珍コメントが続出だろう・・・コメント欄を開く前から期待でワクワクしてしまう。書いてる本人は100%真面目なんだろうけど、それでもやらかしてしまうのが頭カラッポな日本のオッサン。「走行性能ならポルシェだけど、故障頻度の少なさ、機械としての信頼性ならトヨタの小型車、何を基準に比べるかによって違うだろ!!」と意味不明にキレてる人・・・。
みんなトヨタに騙されてる!?
本当に失礼だとは思うのだけどさ、なんで日本のオッサンってこの人のように知性が欠如しているケースが多いのだろうか!?(言い過ぎだ!!)確かにおっしゃる通りで「何を基準にするか」によってクルマの評価は違うのだけど、「故障頻度」「機械としての信頼性」を基準にしてトヨタの勝ち!!と断じてしまうのは少々マズかったんじゃないだろうか。この人だけでなくほぼほぼ似たようなコメントがズラリ・・・どうやら日本のオッサンのかなりの割合が「トヨタはポルシェより故障が少ない」と本気で思っているらしい。こんな奴等にドイツ人のコメントを批判する資格があるのだろうか!?
ドイツ人の認識
理屈っぽいと言われるかもしれないけど、「走行性能」を基準にしてポルシェとトヨタの小型車をジャッジすれば、不可逆的にポルシェの優位は主張できるのに対して、「故障頻度」「機械としての信頼性」における客観的なデータで、この両者の優劣を判断するのはちょっと難しい。アメリカのコンシューマー・レポートやドイツのそれに類する機関のデータによると、耐久性・故障頻度においてはポルシェとトヨタではポルシェがやや優勢くらいの結果になる。おそらくモンゴルの代表監督の発言もこれを踏まえたものだったかもしれない・・・。
ポルシェと日本車
日本メーカーの歴代のスポーツカーは非常に耐久性に優れている。無知を承知で言ってしまえば、フェラーリではなくてポルシェをお手本にしてデザインまでそっくりにするなどして歴代のスポーツカーを設計してきたからなんだろう。GT-Rを開発した水野さんの著書には・・・スポーツカーとは本来は、「最高に安全で乗り心地が良いクルマ」だと定義されている。この水野式スポーツカー解釈が指しているのはポルシェであり、俗にスーパーカーと言われるイタリア製の高級スポーツカーは当てはまらないようだ。日産もホンダもフェラーリなんて「博物館行き」と言ってきた意味がなんとなくわかる。誰もが認めるところだろうけど、GT-Rとは911ターボを超えるべくカルロス=ゴーンにチャンスをもらった天才の才能が爆発した傑作だ。
スポーツカーは日本が先!?
よく知られた話だけども、ポルシェ911のルーツはスポーツカーではない。1947年に発売された「ポルシェ356」がその原型だと言われる。トヨタも同じく1947年に戦後初の自動車「トヨペット乗用車SA型」を発売しているが、この両者のスタンスはそれほど離れたものではない。1963年に911シリーズの初代となる901が誕生したけども、スタイルは356の延長線上にあり、当時既に存在していた「ダットサン・フェアレディ1500」の方がよっぽどスポーツカーとして非日常なスタイルを提示していた。ホンダS500、S600が発売されるのもこの頃。
ドイツ自動車文化の特徴
日本メーカーが次々と「スポーツカー」を定義していく1960年代で、ドイツメーカーにはおそらくこの頃は「スポーツカー」という概念がなかったのだと思う。ジャガーやフェラーリなど貴族文化が残る欧州の先進国のブランドには明確なスポーツカー(移動ではなくドライビングそのものを目的としたクルマ)が存在できたけども、ポルシェ、メルセデス、BMW、フォルクスワーゲン、オペルにとっては量販モデルにおいて趣味100%のクルマは構想になかったと思われる。
国内向けポルシェとアメリカ向けポルシェ
ひたすらにブランドのフラッグシップとして911は進化を遂げ、今ではオンリーワンのスポーツカーシリーズへと進化を遂げた。これとは別にポルシェが手がけたスポーツカーがいくつかあったが、1975年から20年ほど展開されたFRのポルシェは、1969年に発売され瞬く間に全米で大ヒットを遂げたフェアレディZのアイディアをコピーしたものであるし、1996年から展開するボクスターやその派生のケイマンは、1989年に世界で大ヒットしたあの日本メーカー車のコピーだ・・・。敗戦国の日本とドイツにはそもそも国内需要としてのスポーツカーはほとんど想定されておらず、戦勝国(アメリカ)への輸出を狙った設計が日産、マツダ、ポルシェなどで行われてきた。
理解できない自分を恥じろ!!
ちょっと話が逸れたけども、ポルシェとトヨタは1947年に同時に乗用車の販売を再開し、ポルシェはストイックにイメージを変えずに単一シリーズを進化させ、トヨタは日本の経済成長を先導しつつ、あらゆる種類・ジャンルの乗用車を世界に先駆けて作ってきた。70余年が経過し、911はドイツ自動車産業が誇る高性能車として君臨し、マーケティングを重視したトヨタは、価格競争力が高いモデルを主体としつつも「薄利多売」ではなく、ポルシェを超える利益率を計上するまでになった。この現実を直視するならば、ポルシェは「クルマで勝ち」、トヨタは「業績で勝った」・・・故にドイツ人監督の表現は的を得たものだったんじゃないだろうか。このコメントでトヨタを批判しているのだろう。
911の意義とは!?
もしトヨタの相手がポルシェではなくビーエムならば・・・。トヨタは「クルマで勝ち」「業績でも勝った」!!と胸を張って言えるだろうけども、日本のオッサンはどーやらポルシェとビーエムは同じようなものだと思っているらしい。耐久性が高いポルシェと、ポリタンクから燃料が漏れるビーエムは違う。ドイツ人のための乗用車として長らく進化を遂げてきたポルシェ911は、非常に高価なモデルになってしまったが、ドイツ車最高の「乗用車」としてクオリティを高めてきた。果たして「業績」で勝つことにしか能がないトヨタに、911と同等のクオリティが出せるのだろうか!?
日本の911と言われる所以
日本のオッサンは911とカローラの関係がわかっていない。同じ年月を経てトヨタが妥協することなく乗用車のクオリティを追求したならば、トヨペットSAから連なる進化によって世界が刮目する「乗用車」がトヨタブランドに君臨していたはずだ。いうまでもないが元日産の水野という傑物は、スカイラインシリーズを「乗用車」としてGT-Rという極限状態にまで進化させることで、911と並び立つ存在に仕立てあげた。こんな凄い人が日本メーカーにいたことが日本の自動車産業にとっては幸福なことだったと思う。