MAZDAのメッセージが意味するもの
ちょっと前に使われていたMAZDAのCMにおけるメッセージが「SUVはMAZDAが変える!!」 MAZDAらしい不遜さが溢れていて、コンプライアンス的にどーなの!?スレスレ!?日本市場でSUVを販売する他のメーカーへの極めて攻撃的な「ヘイトスピーチ」と受け止められる!?
トヨタとホンダが怒った!!
おそらく言いたいことは・・・トヨタ、日産、ホンダが作ってきたSUVは、設計基準から考えてもMAZDAでの製品化はありえないレベルってことだろう。RAV4やCR-Vは一度日本市場から尻尾を巻いて逃げ出しているけど、そりゃ当たり前の話だ。SUVは趣味性を重視して設計されるべきだけど、デザインも乗り味もすっとぼけたモデルを確信犯的に作り続けていたのだから。ユーザーを舐めた姿勢がMAZDAには許せなかったのだろう。「そんなにいいクルマを作りたいなら、勝手にやってくれよ」って感じもするが、ちょっとした野望が渦を巻きCX-5の成功を見て、なんと!!RAV4もCR-Vも日本に帰ってきたよ・・・。
3代目ハリアーの失墜
2012年に初代CX-5が登場し、2017年には2代目へとフルモデルチェンジを果たした。同じころに日本向けにSUVを仕掛けたトヨタの誤算は初代/2代目を北米ではレクサスとして売っていたハリアーを、2013年に国内専売としてシャシーを格下げして設計・販売したところ、想定以下の低調な販売に終わってしまったことだろう。トヨタのディーラー網があるのでCX-5と同程度には売れてはいたのだけども、販売規模を考えれば大惨敗に等しく、MAZDAによって顔面に泥を塗られた格好だ。しかも「SUVはMAZDAが変える!!」とまで挑発される始末。このメッセージはトヨタ・ハリアー陣営に対してのMAZDAの勝利宣言であり示威行為なんだろう・・・。
まさかのRAV4格上げ
完全にキレたトヨタ陣営はハリアーの弔い合戦として、急転直下でRAV4の日本復帰を決める。先代まではハリアーがカムリ級のKプラットフォーム、RAV4がプリウス級のMCプラットフォームを使っていたが、3代目ハリアーがMCに格下げされ大失態だったこともあり、RAV4は逆に格上げされてKプラットフォームとなった。RAV4のシャシー変更の直接の理由は、北米市場での最大のライバル・ホンダのミドルシャシー(シビック、アコード、CR-V)の大幅な性能向上に対応するためだろうけど、これがそのまま日本市場で小賢しいMAZDAを黙らせるのにちょうどいいと判断したのだろう。
トヨタ・ヒエラルキーがねじれる
RAV4は、レクサスRXやESと同じKプラットフォームなので、トヨタグループのヒエラルキーでは、MCプラットフォームを使うレクサスNXよりも良いクルマということになる。考えようによっては、レクサスが日本に導入される前に北米レクサス車をセルシオ、アリスト、ソアラ、アルテッツァ、ハリアーとして売っていた「充実感のある」トヨタラインナップが復活したことになる。2000年頃のトヨタは名実ともに日本の自動車産業のエースだった。独立系メーカーはトヨタとホンダだけで、日産とマツダには外国人の社長が・・・。
トヨタがマツダの憧れであった時代
2020年現在ではトヨタとマツダのクルマ作りへの考え方には大きな隔たりがあるけども、2000年前後の両者はむしろ協調して欧州市場で主導権を握ろうとしていた節がある。2001年のカローラランクス/アレックスや2003年の2代目アベンシスは欧州でも高い評価を受けていたし、1999年の初代ヴィッツ(ヤリス)は欧州COTYを受賞している。当時と今のトヨタ車とどこが違うか!?言うまでもないけど、4AT/5ATなのでエンジンの開度やレスポンスが全く違う。ハンドリングもクルマが今より軽かったこともあって車幅感覚を掴みやすく、狭い道でも擦りそうなんて感覚は全くなかった。
10年で全てが変わる
2000年頃に欧州と併売されていたトヨタ車と、今のトヨタ車の間にある溝とは、当然だけどその後にプリウス設計とミニバン設計がトヨタ車のスタンダードになったことによって生じている。2000年頃のアルテッツァはイギリスメディアにおいてもE46を超えている!!とまで言わせたし、1997年の初代アベンシスはFF車ながら、やはり当時欧州で大ヒットしていたE46のスタイルを模倣していた。当時はホンダ、プジョー、アルファロメオなどがDセグスポーツサルーンをFFで設計していたけど、アベンシスとMAZDAの初代アテンザ(2002年)もその波に乗った。
変わるトヨタ、変わらないマツダ
SUVのRAV4とCX-5の比較のもっとも重要なポイントは、2000年代のトヨタ車の変遷をたどることで見えてくる。2000年代前半のトヨタが欧州で高く評価された設計を、先述の理由でマツダの開発者も「同じ目線」で見ていたのだろう。マツダは「オリジナリティの塊」とか見る向きもあるけど、このメーカーが本当の実力を見せるのはベンチマークすべき「正しいお手本」がある時であり、技術やポリシーの取捨選択の「正しさ」という美点によって世界中にファンを持っているメーカーだと思う。2000年代前半の欧州向けトヨタ車と現在のマツダ車の設計は近いところにある。業界再編期に「独立」を保ち、欧州市場へ力強く撃って出るトヨタをマツダは「憧れ」の想いで見つめていく中で自らの進むべき方向を見つけたように思う。乱暴なことを言ってしまえば、今のマツダは2000年代前半のトヨタがそのまま成長した姿なのかもしれない。
欧州と日本の違い
初代ヴィッツ、カローラランクス、2代目アベンシス、アルテッツァといった欧州でヒットしたトヨタ車は、日本市場におけるメリットを排除して、欧州でウケるために徹底して「グランドツーリングカー」として作られている。しかしNAエンジンのトルクにATでは過積載時に日本の信号ジャングルを抜けるのはちょっとシンドイので、日本向けのミニバンのような車重の嵩むモデルを同じプラットフォームで作ることを考えてだろうが、2000年代後半はCVTの導入を一気に進めてしまった。ATよりも出足のトルクを確保できるCVTの方が、信号の多い日本の都市部には合っている。またまたラディカルな結論だけど、マツダのミニバンが泣かず飛ばずだったのは他社を真似てCVT化をせず、GTカー的な設計でスライドドア車を作ってしまったことにある。
今のマツダはSUVメーカー!?
そろそろオチがわかってしまったかもしれないが、現在販売されているCX-5とは、マツダが2000年代前半のトヨタに親近感を抱きつつ、自らのアイデンティティとして選択した、極めてGTカー的な要素の強いプラットフォームで作ったSUVだ。手に余る車重にもかかわらずトルコンATにこだわることへの回答は、言うまでもないけどディーゼルユニットの投入。そしてあの「へんてこりん」な特性のガソリンターボエンジンもまさにこの「グランドツアラー型SUV」のための特注バージョンとしか説明できない。
CX-5の貫いたポリシー
CX-5を選んだユーザーにとっては「都市型SUVデザイン」&「GT特性」による上質なクルマに仕上がっている!!と直感で感じられるところが最大の自慢だろう。よりこだわりのGT特性を求めて中速域でのエンジン回転の伸びという意味では2.5L自然吸気ガソリンのバージョンにも美学が備わっている。MAZDAとしてもデザインへの自信は揺るぎないものだし、エンジン技術やトルク増幅まで可能な自社製ミッションを保有することで市販車レベルでは圧倒的なアドバンテージを得ているのだから、さらなる「GT特性」の高みを夢見てしまうのも仕方のないことだろう。縦置きAWDに変わるという次期モデル(ポルシェ化計画)は、突然変異ではなくて2000年代にマツダが「選択」した伝統を受けつぐのだろう。
RAV4とは「SUVの皮を被ったミニバン」
その一方でRAV4は、CVTという極めて常識的な判断などを積み重ねて築き上げた「トヨタ・ミニバン帝国」の設計をルーツに持つ。「GT特性」のマツダはあらゆるモデルで軽量化に頭を悩ませているけど、「ミニバン特性」のトヨタ設計ならばクラスを超えた車重を引き受けることも可能だ。RAV4、カムリ、レクサスESを担当する「Kプラットフォーム」はその中でも最重量のモデルを担当できる。「MC」でも2トン級のアルファード/ヴェルファイアが作れるのだから、「K」で1800kgくらいなら余裕だろう。「ミニバン特性」ながらもセダンやSUVが作れてしまう。MAZDAやメルセデスなどにはない考え方だ。
RAV4は正義だ!!
RAV4がWCOTYで全く無視されるのも仕方のないことだ。メルセデスとは何かを理解しているドイツのユーザーには当然に理解されないだろうし、マツダが好きな日本のユーザーから見ても「茶番」でしかないだろう。だけど、そこにはトヨタの信念やポリシーが貫かれているし、CX-5とはスタート地点がまるで違うのだから、マツダ車がたどり着けない美点もいくつもある。トヨタのミニバンは「王者」であり、マツダのスライドドア車は「敗北者」だ。マツダ好きも欧州車好きもその事実を忘れてはいけない。CX-5とRAV4の優劣は難しい。どちらにも素晴らしい美点と致命的な欠点があるのだけど、それを十分に理解した上でマツダもトヨタも自らの長所を発揮できる設計を選択しているから、どちらも正義であると言える。・・・なぜカーメディアの連中はこのような分析ができないのだろうか!?
関連記事
「トヨタRAV4 と 13ブランド比較」
「MAZDA3 と ゴルフやカローラスポーツ との決定的な差」