真の言葉と行動
4月に発売されたベン=ホロウィッツ「WHO YOU ARE」を読んでピンと来た。これは決して意図的ではないかもしれないけど、かなり的確にMAZDAのことを書いている。副題には「君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる」とあるが、『真の言葉と行動』とは、同調圧力に屈することなく自らが信じた道を歩む意志なんだろうけど、俗世の批判(AJAJの批判)を最も浴びているMAZDAにこそふさわしい表現だと、読み終えた後に気がついた。
アメリカのホリエモン!?
そもそもベン=ホロウィッツって誰だよ!?2007年に経営していたITベンチャーをHP社に16億ドルで売り渡した伝説的なスタートアップ経営者らしい。1作目の「HARD THINGS」の際に雷に撃たれたような衝撃を受けたので、今回も迷わず読んだ。サイバーエージェントの時価総額が50億ドルくらいだから、社会変革を巻き起こすほどの規模ではないのだけど、ビジネス本を長らく読んで来た経験から、これくらいの規模の会社を経営した人の本は「ためになる」。仕事辞めてブラブラしていた妹に、藤田晋の最初の本を渡したところ、すぐに再就職を決めてキャリアウーマンに変身した時はちょとビビった。
社会変革を起こすためには!?
「WHO YOU ARE」ではトゥサン=ルーベルチューブを例に、世の中を変革する組織が生まれる条件を7つまとめている。フランス革命の時に最も黒人奴隷が送り込まれフランスのドル箱植民地となっていたハイチを独立させた元奴隷の黒人指導者だ。奴隷が反乱を起こす例は数限りなくあるけど、革命に成功して支配者にまで成り上がった世界で唯一の例だそうだ。あれ?マムルークは?とか余計なことはこの際無視しよう。この本は世界史の教科書ではない、あくまで読者が自ら考えるための「かなり親切な」きっかけを与えてくれるものだ。
新型コロナ頼み
ホロウィッツの著作を「些細な事実誤認」というレベルの愚論で貶める前に、現政権に不満を持っている日本人は「どのような現象」が起これば社会変革へと繋がるのかを、この本で明確にイメージする必要がある。日本社会に対して「変わってほしい」と強く思っているけど、全ての国民は安易に変革行動ができないように学校教育で暗示がかけられている。ちょっと余談だけど、幸運なことに新型コロナによって多くの人がわずかな「可能性」に気づき始めた。大阪府知事のような驚異的な才能(演技力)を持つ「政治アクター」の前にマスコミは沈黙を始めた。これは明らかに世の中(政治)が変わる予兆だろう・・・。
ルーベルチュールから得られた「7つのヒント」のうち最初の3つだけ示そう。1つめは・・・
「うまくいっているものを残す」
ハイチを支配したルーベルチュール率いる奴隷兵団の幹部たちは、白人の経営する農場の収奪を主張する声もあったが、ルーベルチュールは「報復」を一切認めなかったらしい。世の中は大きく変容(奴隷廃止)するが、全てを変革するのではなくて、うまくいっているものをいかに見極めて残すかが大事。もう笑うしかない。なぜあのドイツの名門ブランドは人気がなくなったのか!?いうまでもないけど、高回転エンジンなどの技術でファンを惹きつけて来たのに、いきなり真逆のことをやってしまい「埋没」したからに他ならない。
とりあえずアップル
「NAエンジンの気持ちよさ」なんてフレーズが使えるメーカーはもはやMAZDAだけという異常な状況。日本でも世界でも「MAZDAは面白い、けど他のメーカーは・・・」と、自動車好きもジャーナリストもため息を漏らす日々が続いている。ホロウィッツは、「うまくいっているものを残す」の好例としてスティーブ=ジョブスを挙げている。ジョブスが復帰した頃のアップルは破綻までの「カウントダウン」状態にあったと様々な文献に書かれているが、どれほど深刻であったか実態はあまりよくわからない。それでも全社員がある種の強烈な指導力にすがりたくなるくらいの絶望的な状況であったことは確かなようだ。
起死回生の連続
MAZDAのベテラン社員がアップルにどれだけ親近感を抱いているか知らないけど、幾度となく経営危機をミラクルに乗り越えて来た果てに世界中に多くのファンを獲得しているという意味では極めて似ている。自社の製品を「最高にエレガント」と表現する部分も、ただの手前味噌ではなく、客観的にも優れたものが作れているように思う。
安定したければゴミを作れ!!
資本主義の真理なのかもしれないが、多くの安定企業の開発担当者に話を聞いてみると、「それ本気ですか?」ってくらいに自社製品がダメな点を挙げてくれる。ものすごい分析力に驚く。「花王」や「ライオン」の人が、この匂いサイテーですよね・・・と自社製品をジャッジしていたのは忘れられない。柔軟仕上げ剤の匂いなど真剣に嗅ぐユーザーなどほとんどいない。パッケージの親しみやすさと大手メーカーへの信頼感で選んでいる。開封して使う時もムカつくほど不快な匂いではない限り違和感はないかもしれない。
なぜアップルとMAZDAは消えなかったのか!?
柔軟仕上げ剤の香りに「完璧」を求めるなど、ナンセンスこの上ない。数値化できないのだからあからさまに比較はされないし、別の香りで新商品をアピールするサイクルも崩壊する。同じように電球は2年以内、冷蔵庫、テレビ、エアコン、パソコンなども10年以内には壊れるように設計されている。それが「資本主義の常道」なのだから、その対極のことをやっているアップルとMAZDAがやっていることは常に「批判」を呼び込みやすいようだ。ちょっとわかりづらいけど、「買い換え促進のゴミ」を作るのも、「ユーザーを串刺しにする完璧さ」を追求するのも、それぞれに「うまくいっている方法」である。
例えばクルマのデザイン・・・
クルマも買い換えを意識して定期的に劣化を感じるデザインにしなければならない。メルセデスやBMWの2世代くらい前のモデルなど、ここまでダサくなるか!?ってくらいに風化している。それなのに1990年発売の「RX7FD3S」や1992年発売の「ユーノス500」は、あまりにもデザインの完成度が高すぎて悲惨なことになっている。WCOTYのデザイン賞を何度も勝ち取っているジャガー・ランドローバーは決して儲かってなどいない・・・。
成功の法則は色々ある
MAZDA、ジャガー・ランドローバー、ポルシェなど尖った自動車メーカーの歴史は「安定」とは無縁なんだけど、「マツダだから働きたい」というクレイジーな開発者やデザイナーが集まるようだ。当然ながらローレンス=ヴァンデンアッカー(MAZDA→ルノー)やロバート=メルヴィル(ジャガー・ランドローバー→マクラーレン)といった才能が次々と生まれてくる。少なからず資本主義のルールには則っていないかもしれないが、これはこれで「うまくいっている」部分なのではないだろうか!?
・・・ちょっと長くなってしまった。
続きは次回に書きます。