新車を出せばいいってもんじゃない
日本市場で新車を出さないことで販売が低調に推移しているとされる日産。どっかのドイツブランドは、規模に見合わないレベルで新車を次々と発売しているけど、日本市場の販売は2019年を見る限りは日産以上に悲惨なことになっていたりする・・・。「新車効果」って言葉はどこか空虚だ。トヨタのように社用車・営業車をシェア基盤に持ち、全国に最強のディーラー網を張りめぐらして、新車発売とともに買い替え促進の営業部隊が駆け巡るような体制ならば効果はあるだろうけど、2番手以下のメーカーにとってはメリットは薄い。
バブルはとっくに終わった
2015年から日産の国内販売の責任者を務める星野朝子副社長が就任してから、新車販売のサイクルが非常に遅くなった。どう考えてもこれは「作戦」としか思えない。バブルの頃のように3〜5年で新車に乗り換える人は確実に減った。かつては自己演出(ブランディング)に広く使われていた高級車の新車買い替えもすっかりと影を潜め、ドイツブランドの上級モデルなど売れ行きは惨憺たる低調っぷりだ。そもそもクルマが本当に好きならば気に入った一台は大事に長く乗りたいと願うものだろう。
日本市場は上手くいっている!?
日産キックスは国内市場で2年9ヶ月ぶりの登録車だそうだが、それでも日産の国内販売は黒字で推移してきた。新型車を次々と投入した北米では苦戦し、欧州進出したインフィニティは撤退を余儀なくされ、新興市場向けのダットサンは廃止に追い込まれた。その一方で国内でじっくり販売を続けてきたノート、セレナ、エクストレイルはいずれも高い水準で売れ続けているし、中国市場もごくごく標準的なCセグのシルフィで絶対王者VWゴルフを撃ち落としている。さすがに新車効果がないと、現在のコロナなどの異常事態では大きく販売に影響はでるけど・・・。
良いクルマならば・・・
ノートe-POWER、セレナ、エクストレイルはそれぞれに「これが最良のクルマ」と感じて長く愛用しているユーザーも多い。いずれも瞬間最大風速では単月でトップシェアに躍り出たことがあり、それぞれ発売から長いモデルサイクルになっているにも関わらず、各ジャンルで常に上位のシェアを維持し続けている。カーメディアは新車をなかなか発売しない日産をイジり続けたけど、キックス発売まで一向に動く気配がなかった。これはもう従来のセオリーを覆す逆転の「経営哲学」が発動しているとしか思えない。
ブランド力とは・・・
少なからず贅沢品であることを否定できない乗用車は、その販売に当たっては「ブランド力」と切り離せない関係になっている。三菱自動車やフォルクスワーゲンのような優秀な自動車メーカーであっても、スキャンダルによる「ブランド力の低下」がそのまま中長期的な販売の減少に繋がっている。ちょっとしたことでもかなり毀損されるブランド力を、回復・上昇させるために日本市場で展開する全てのメーカーはあらゆる策を弄している。
新車とブランド力は別物!?
「インスタ映え」するような斬新でセンスが良い新型モデルを投入すれば、ディーラーへの客足は増えて、それなりの歩留まりで新車が売れることだろう。この非常にシンプルな販売戦略によって、要領よく毎年のようにヒット車を生み続けたとしたら、それで果たして「ブランド力」は高まっていると言えるのだろうか!?国内シェアが高まり、街中で見飽きるほど走っているモデルを「薄利多売」で売り捌いくことは、必ずしも国内市場で最高の「ブランド力」という結果にはならないと思う・・・。
本物のブランド力
最高レベルの「ブランド力」が備わっているポルシェ911は、キープコンセプトの中である程度予想されたアップデートを重ねて現在の地位についている。決して過去のモデルを否定することなく、初代の901から現行の992まで見事なまでに「均質」に評価されている。マツダロードスターのNAからNDまでにおいても同じことが言えるかもしれない。「ブランド力」とは自らのアイデンティティを表象したモデルを「静的」に提示し続けることで得られる。クラウンやスカイラインにしても同じことが言えそうだ。
星野リゾートに近い!?
コロナによって一時期非常に多くのメディア出演をこなした星野リゾートの星野佳路氏は、日産副社長の旦那だけども、「ブランド力」を語っても違和感のない日本人経営者だ。安易な経営戦略で一時的に多くの客を動員するような「投機的」ビジネスとは真逆で、10年以上に渡ってその価値を「静的」に守ることで、国内のリゾートホテルグループでは圧倒的な「ブランド力」を誇るようになった。夫婦だからという安易な理由で恐縮だけど、国内市場の販売責任者を勤めてきた星野朝子副社長の「ブランド戦略」もどこか似たところがある。
同調圧力
日産の「星野戦略」はちょっと時期尚早だったかもしれない。これまでの消費の主体だった団塊世代から団塊ジュニア世代までの年代の人々は、自分の趣味で好きなものを選び取っていく消費が苦手な人が多いようだ。これらの世代では、不必要に「個性的」な人は、ほぼ100%変人扱いされるため、とにかく「同調圧力」に乗っかった消費が楽でいいのだろう。大手メーカーが仕掛ける「プリウス」「アルファード」「ハリアー」などの人気モデルを選ぶことに「躊躇」すらないのだと思う。
差別化
星野朝子副社長の狙いは、日本の自動車販売の「常識」を打ち破ることにあるのだろう。旦那と同じように「業界の革命児」を目指しているとしか思えない。日産車のクオリティの高さを解ってくれる人は一定数いるのだから、「静的」なビジネスモデルでも国内市場単体では黒字を確保できる。さらにシェアを確保しようと動けば動くほどに、トヨタとの差別化が難しくなるし、大怪我に繋がる可能性すらある。
「静的」と「動的」
「ブランド戦略」には「静的」と同時に「動的」なアプローチもあるけど、それは決してトヨタのような新車効果によって顧客をかき集めるわけではない。「ブランド力」とはユーザーに「静的」に質の高さを提示しているだけで選んでもらえるブランドになることであり、さらに「動的」に従来よりも高価で付加価値の多いものを新たに投入することにある。4代目となる新型ハリアーは、初代ハリアーと比べて一体どれだけの付加価値を見出しているだろうか!?
伝統のプライド
10年以上の長いサイクルで販売されてきたジュークは、1.6Lターボという特異なグレードをずっと守り続けてきた。カーメディアはこんな日産のこだわりをもっと評価してもいいんじゃないかと思う。そして変わって投入されるキックスは、全車e-POWERとなり、ボトムグレードの価格でもジュークより70万円以上も高くなる。当然ながら「客寄せパンダ」のグレードもない(トヨタや欧州ブランドを見下してる!?)。本当にどんだけプライドが高いんだ・・・。