ホンダは市場を破壊する
ホンダ不朽の名車に挙げられるスポーツカー・S2000は、とある日本メーカーが気まぐれに作ったオープンスポーツカーが世界的に大ヒットしたことを受けて開発された。「他社の真似はしない」がホンダの社是なので、S2000はピュアスポーツとしてのパッケージに収まるわけはなく、後期モデルはVテックで280馬力の自然吸気エンジンとして仕上げられたため、沢村慎太朗さんはオープンスポーツカーとしては「速過ぎる」のが欠点だと書いていた。
S2000誕生から四半世紀余りが経過し、再びホンダがZR-Vという異色のSUVを登場させた。例のオープンスポーツを大ヒットさせたメーカーが、今度は2010年代に新型SUVで世界的な成功を収めたが、再びホンダによる「再解釈」が行われた。ホンダのデザインの文脈からは大きく飛び出していて、まるでイタリアのラグジュアリーブランドを思わせる雰囲気からも、このクルマの開発の経緯がある種のモーチーフを掲げていることがわかる。
意識高過ぎる
ホンダの立場で主張すれば、ZR-VはCX-5をパクったわけではなく、MAZDAのクルマの仕上げに不満があって、同業メーカーとして黙っていられなかったということなのかもしれない。CX-5はディーゼルエンジンありきで作られた、やや曖昧な「スポーツSUV」のパッケージに対して、たとえSUVでも直感的でシャープな乗り味でスポーティな個性を主張するモデルを発売することは、自動車産業全体にとっても良いことで、頼まれてもないけどMAZDAにお手本を見せたかったのかもしれない。
アメリカ市場ではCR-Vが、日本市場では2世代に渡ってヴェゼルがトップシェアを争うなど、ホンダにも世界最強のSUVブランドという自負がある。ホンダがトヨタや独韓米の強豪メーカーと競い、多額の開発費を投じて切り開いたSUV市場で、チャラチャラと注目度を掻っ攫っていくMAZDAがCX-5、CX-8、CX-60、CX-90で順調に商売しているのに苛ついているのかもしれない。