沢村慎太朗氏のメルマガを編集した「午前零時の自動車評論11」が発売されました。もともとはメルマガで、もうかれこれ2年前に配信された内容のものなので、いまさら感はありますけれども、改めて読んでみると、昨今の沢村さんの仕事でしばしば見られる「BMW軽視」の方向性(『BMWのすべて』など)の原点と言えるものがこのレビューなんですね。なるほど。
それにしても見事です。何が?もちろん沢村さんの筆致の素晴らしさです。このクルマに試乗したときのイメージが鮮明に甦ってきます(大袈裟じゃないよー)。沢村さんのレビューは素人には難解な部分もあって、さらにゼネレーションギャップで80年代90年代のクルマをアレコレ語られても全く分らないですけども、リアルタイムのクルマを一刀両断するときのバランス感覚は凄まじいですねー。ここまでF30系の『闇』に迫ったドキュメントは見た事がないです!!!
普段の難解さが嘘みたいに今回はスイスイ読めます。これまでプロライターの1人として指摘できていなかったであろう、F30系3シリーズに乗ったときに感じるほんのちょっとだけ「不愉快」な部分をものの見事に解明してくれています。その理屈が正しいかどうかは未確認ですけども、私がF30系に感じた『問題点』を沢村さんもほぼ同じように認識していたのか〜!!という事実だけでも十分に感動できますし、やっぱり沢村というライターはどこまでも正直にレビューを書いているんだ!!!ということがとてもよーく分りましたよ。
それにしても『BMWを虐げ過ぎ』じゃないですかねー? 少なくともこれを読んだF30のユーザーは非常に不愉快でしょうし、F30よりも圧倒的に『ゴミ』だと貶められているE90のユーザーなんて怒り心頭じゃないでしょうか。え?E90系を転がしてるような連中は沢村さんの活字(文字だけ!)なんてまず読まないし!読めないし!だから全く問題ないって? まー確かにそーでしょうけども(文字が読めてクルマの価値がわかるならばE90系は絶対に買わないでしょうね)。
それでもBMWの弁護をちょっとだけしておくと、F30系と基本的には同じ設計を使う「F36系4erグランクーペ」は今年に入ってから試しましたけども、F30系(非Mスポ)よりも車高&全高を落としてヘンにフワフワしなのがとても良かったです。やっぱりBMWってこういうモノだよねーと、そのフィール全般には妙に納得しました。それでいて足回りが締め上げられているわけでもなく、E90系3erMスポのようなジョイント部から火花が出ちゃいそうで3年も乗ったら関節痛を煩いそうな『固さ』を越えた『欠陥』なんてものも無いですし。アレ(E90系Mスポ)は酷いです。30歳過ぎてあんなクルマに乗ってたら親が泣くよ〜・・・。
沢村さんも指摘してますが、F30系の日本仕様は「BMWジャパン」という別会社が日本向けに販売しているスペシャルモデルです。本国仕様とはまるっきり方向性が違う味付けをして日本の(高齢者)ユーザーのニーズに応えています。ベンチマークはズバリ!トヨタ・クラウン。これを言うと「3erとクラウンには越えられない壁がある!」とかコメントを頂戴しますけど、確実にポリシーを捨てているのは3erの方ですね。だけれどもハッキリ言って相手のフィールド(クラウン的価値観)では、どう考えても南アフリカ車は、愛知車に勝ち目はない。そーなんですよ!『壁』があるんです!そこを見事に沢村さんは示唆しています!!!
「ジャパン」によって手が加えられていない、本国仕様のBMWを日本で売ってくれるメーカーを「アルピナ」と言いますが、このアルピナによるドイツ直送の1000万円級のモデルでもF30系には大きな『欠陥』があるようです。結局はクラウンの水準までサルーンとしての完成度を上げるには、クルマの基本設計から見直さないとダメみたいですね。現在では自力でFRサルーンの設計を真剣に行うメーカーは少なくなっていますが、その小さな世界におけるスタンダードでの趨勢は『トヨタ(レクサス)と日産』による対立軸(クラウン×フーガ軸)へと収束しています。メルセデスCクラスは現行kら、新たに開発されたジャガーXEもアルファロメオ・ジュリアもFR車のフロントサスペンション形式は『クラウン×フーガ方式』です。
それに対してF30系はポルシェ911(あるいはトヨタ86)と同タイプの設計を使います。アシを固めることが前提のスポーツカーと同じ形式のサスを使い続けています。2012年発売ですから、その後の流行から完全に外れていてF30系の設計がFRサルーンの中で孤立しているのは無理もないですけど。それでもなんとか日本市場でブレイクするために、アシを緩めてなんとかクラウンと遜色ない乗り味へと誤魔化しをした。その結果としてしわ寄せがハンドリングの局部的な倦怠感につながると沢村さんは指摘しておられます。たしかにF36系もUターン気味にハンドルを切ったときの一瞬コントロールを失うような手応えの怪しさが気になったな〜・・・。