巨大メーカーを蘇らせた男達
1990年代の初頭に多額の赤字に苦しんでいたVWの会長に就任し、わずか数年のうちに黒字転換を果たしたのが辣腕経営者フェルディナント=ピエヒ。ポルシェ博士の孫として知られ、アウディやポルシェでも活躍した技術畑の人間がトップに就任してわずか数年でVWが奇跡的な回復を遂げたのには、かなり『如何わしい』やり方があったと言われています。
当時ドイツ国内でVWと互角に渡りあっていた大衆ブランドのオペルを壊滅させるべく、親会社GMの幹部をチームごと引き抜き、全GM車の部品価格を記したデータを違法に持ち去ったことが明らかになっていて、訴訟まで起こされています。うーん。技術畑出身の経営者だからこそなのか!?偏見かもしれないですが倫理観もへったくれもない作戦を繰り出しています。
そんなピエヒから連想するのが、1999年に赤字でルノーの傘下入りした日産に乗り込んできたカルロス=ゴーン。反発する『親方日の丸』気分が抜けない日産社員を片っ端からクビにする強権発動の『コストカッター』ぶりを発揮。さらに日産村山工場をあっさりと閉鎖。組合が強すぎる工場なんて潰すに限る!!さすがは半官半民で長年やってきたルノーの大幹部だけあって。労働争議の処理は得意中の得意だったのかも。
VWに続いてルノー日産も、トヨタを追い越す水準(年産1000万台)まで急速に成長しました。どちらも相当に荒っぽい手法を駆使して業界を駆け上がって行きました。「もっといいクルマを作って欲しい!!」というカーメディアが上から目線で問いかける呑気な言葉なんて1mmも聞かないで、徹底的にライバルを排除し、弱小勢力を傘下に組み込んで成長しました。
豊田章男社長の本質
その2社を上回る業績を上げているトヨタは、もっとヤバいことをたくさんやってきたのかな!? 2009年に社長に就任した豊田章男。前年にリーマンショックの煽りを受けてトヨタは赤字転落。就任後もしばらくはアメリカでのリコール問題などで苦しい時期が続きましたが、2013年には二桁近い利益率を確保するなど見事に経営再建に成功します。
たった一人のカリスマ経営者が現れ、倒産も囁かれていた巨大メーカーを根底から変えて、業界のトップランナーへと変えていく様を次々に見てきました。そしてそれと同時に『闇』も次々と浮上しています。フェルディナント=ピエヒが会長を退任した後に、不思議と巻き起こったVWのディーゼルゲート事件。そしてカルロス=ゴーンが辞めた日産でも混迷極める不祥事が起こっています。沢村慎太朗というライターは、VWのディーゼルゲート事件の真相は、ピエヒが現場復帰を目指して起こした内ゲバではないか!?と指摘していましたが、確かにこれまでやってきた手段を選ばないやり方を考えるとかなり鋭い指摘だと思います。
カルロス=ゴーンの退任時期にもちょっと疑問があります。後任に当たり障りのない日本人を据えた上で、おそらく長年続いていて経営陣も戦々恐々として状況を把握していたであろう一連の不祥事が発覚。なんでこれまでバレなかったのかが不思議でなりません。なんでこの時期に発覚するの!?偶然で片付けるには誰かさんにとって都合が良すぎるのでは!? 今回の一件で日産の業績がガタガタと落ちるようなら再びフランスから新社長が送り込まれてくるのでしょうか!? 今はとりあえずガス抜きの時期!?だとするならば日産のステークホルダーは気が気じゃない、まだまだ日産の腐った状況が色々と明るみに出てくるのでしょうか!?
カリスマ経営者は、尊敬すべきカーガイだった
フェルデナント=ピエヒが在任中に発売したクルマはなかなか魅力的です。特に『アウディTT』『ゴルフGTI』『シロッコ』は、アウディとVWのイメージを大きく変えました。このオッサンは単なる『闇のフィクサー』ではなく、クルマに対する確かな目を持っていたことは間違いなさそうです。
カルロス=ゴーンも短い期間に同時進行で『フェアレディZ33』『V35スカイライン』『GT-R』の開発を指示します。自らの手で『日産の亡霊』を徹底的に排除して、かつての栄光を受け継ぐもを全て始末するかのように『34スカイライン』『S15シルビア』の生産中止を決定したので、クルマ好きからも相当に嫌われていますが、今の日産の技術を示す有数のラインナップは全てカルロス=ゴーンの手によって再構成されたクルマばかりです。
豊田章男といえばやはり『86』。トヨタの過去を否定する様々な言動で人気の社長が、トヨタらしくないスポーツカーを作るべく、探してきた素材がスバルのプラットフォームの利用だったわけですが、これはこれまでのトヨタではありえないこと。スペシャルティカーをOEM供給で賄うなんてのは、以前のトヨタでは絶対にありえないこと。スポーツカー用のエンジンこそヤマハにチューンさせていましたが、提携先とはいえ車体組み立てを行う同業他社から供給を受けることはなかったです。
トヨタは何者になるというのか!?
『カンバン方式』など独自のスタイルを貫いてきたトヨタのクルマづくりが、章男社長に変わってからは、他社の成功している要素を次々と取り入れています。『86』に続いて『スープラ』も発売が迫っていると報じられていますが、OEM戦略だけでなく少々キナ臭いマーケティングを仕掛ける辺りから、ピエヒやゴーンの手法を大いに参考にしているといっていいかも。
レクサスはすでに1989年から存在していますけども、LCなどの新型モデルを見る限りではアウディの路線を追求していて、今度はコンパクトSUVまで出すらしい。新しく生まれたGRは、どうやらNISMOのようにスポーツ好きなユーザーを吸引するブランドに育てたいらしい。奥田・張・渡辺の時代からの脱却と、ピエヒ、ゴーンに次ぐ三番煎じを狙っているのか!? このまま章男社長が方針転換せずに突き進むならば・・・その強引な手法の前に他の日本メーカーは10年以内に全て消えているかもしれません。いつかのオペルのように。それともその前にトヨタが内部崩壊するのが先なのか・・・。