世界最高のブランドは?
全くと言っていいほど知られていない新興国の自動車メーカーが、世界の自動車メジャーに対峙するために、既存のブランドを1つ受け継げるとすればどれを選択するだろうか!?生産拠点がメキシコ、トルコ、マレーシア、タイといった下請け雑居エリアになるならば、フェラーリなどのスーパーカーブランドや、ロールスロイスなどのラグジュアリーブランドで成功するのはまず無理だと思われる。世界的な知名度を獲得していて、新興国で生産していてもそれほど違和感もないブランド・・・。
1、JEEP
2、MINI
3、MERCEDES
4、LEXUS
5、AUDI
がベスト5なんじゃないかと思う。6位にBMWか。1位、2位の両ブランドは長い歴史の中でオーナーが変わり続け、JEEPはイタリア資本、MINIはドイツ資本へと流れついたが、米中欧日などの主要市場で確実に存在感を発揮している。密かに次世代の覇権を狙っている中国の中堅弱小メーカーなどは、可能であればぜひ手に入れたいと思っていることだろう。
小型車不毛の北米でも
Bセグ&CセグのみをラインナップするMINIは、VWポロやアウディA1、ハッチバックのAクラスや1シリーズですら上陸できていない北米市場で堂々と市場を確保している。ルノーやPSAなどのフランスメーカーや、小型車を作らせれば天下一品と言われるSUZUKIなどもすでに北米市場からは撤退済みだ。さぞかしMINI(BMWグループ)のクルマ作りはライバルブランドに差をつけられるほど達者なのだろう・・・と結論することもできる。
日本メーカーと異なる到達点
日本市場で観測する限りではMINIの販売が輸入車トップクラスに位置し続けるのは、このブランドがユーザーから「時代に合わせたアップデート」をほとんど望まれていないことが理由だと思われる。同じBセグではトヨタ、ホンダ、日産がエゲツないレベルのスピードで新型ユニットを投入している。日本生産を維持するために3社とも必死なので否定するつもりは毛頭ない。200万円以上の価格帯である程度のまとまった台数を売るために、多少は大げさに宣伝しているところもあるだろうけど、加速性能、燃費、ハンドリング、乗り心地、静粛性など全方向でのパラメータはモデルチェンジのたびに伸びている。
満足度
ヤリスHV、フィットHV、ノートe-POWERと同じ価格帯が日本市場でのMINIのスタート価格だけど、これら3台とMINIはそれほどガチンコすることはないかもしれない.MINIがちょっと高いので諦めて日本車Bセグにするケースはあるだろうけど、200万円代前半のグレードも用意されているので、5年以上はじっくり乗るつもりならば、それほど無理なく手が出せる価格に収まっている。
日本では安泰
日本市場ではMINIに限らず、単価を上げる傾向にある日本メーカーの間隙を突いてプジョー、ルノー、シトロエンなども200万円前後の手頃な価格のモデルで業績を伸ばしている。5年くらいなら飽きずに満足して乗れそうなクルマが新車200万円ならば、今の日本市場では十分に納得できる。しかしフランスメーカーもなく、小型市場もほとんどないアメリカでMINIは存続できるのはちょっと不思議だ。
MINIのルーツ
これはあくまで仮説に過ぎないけども、現行のMINIにはいくつかの伝統が流れ込んでいて、それらがアメリカで培養されている文化様式にマッチしている可能性が高い。イギリスBMCでトルコ人技師アレック=イシゴニスが設計し1959年に初代モデルが完成し、その画期的な横置きFFレイアウトは10年度にイタリア人ダンテ=ジアコーサによって改良され、世界の乗用車で広く使われるようになった。
米英伊の時代
何だコンパクトカーの元祖か!?と思われるかもしれないが、1966年に「最強の公道マシン」として発売されたランボルギーニ・ミウラを設計したベルトーネのジャンパオロ=ダラーラが「BMWミニ」を参考にしてそのレイアウトを考えついたと言ったらしい。1980年まで自動車産業において世界のトップを走り続けてきたアメリカにとっては、50年代60年代にイギリスやイタリアで開発された画期的な自動車技術にシンパシーがあるようで、欧州フォードやボクスホールなど英米の自動車同盟は盛んに結ばれているし、リー=アイアコッカやセルジオ=マルキオンニ(カナダ国籍)などイタリア系のエクゼクティブが北米の自動車メーカーで活躍してきた。
伝統が好きなアメリカ人
アメリカの大ヒットドラマ「SUITS」では、全身で英国文化を表現した敏腕弁護士スティーブン=ハントリーがデートの場面に、アストンマーチンDB2だかランチア・アウレリアB24Sだかに乗って現れるシーンがあった。ある種の皮肉もあるのかもしれないが、マッカラン、グレンフィディックなどウイスキーの銘柄をセリフにしつこく盛り込んでいるドラマなので、登場する「小道具」は全てハイエンドなアメリカンライフの文脈で当たり前のものばかりなのだろう。
アメリカのBセグ
トヨタ・ヤリスとホンダ・フィットはBセグ車としてアメリカ市場ですでに販売されている。フィットは日本のものと同じだけど、ヤリスに関しては日本のMAZDA2がOEMで供給されている(北米MAZDAではMAZDA2は販売していない)。センタータンク・低重心・低床設計を兼ね備えた北米フィットに対抗すべく、Bセグ世界最高の呼び声も高いMAZDA2を「傭兵」として動員している。日欧向けヤリスでは北米市場は難しいのだろうか!?
MINIは小型車にあらず
ちょっと余計なことを書いてしまったが、フィット&北米ヤリス(MAZDA2)はあくまで世界最高レベルの小型車として北米市場を伺っているが、まだまだ北米市場の両ブランドの販売に占める割合は小さい。それなのにMINIはなぜ受け入れられているのだろう!? これは個人的な意見に過ぎないけども、フィットとヤリスは日本式の小型車であるのに対して、MINIはアメリカ人の目には小型車とは映っていないのかもしれない。
適切なサイズ
MINIは1959年以来の伝統を受け継いている設計上の「適切なサイズ」のクルマだ。ボデーサイズこそフィットやヤリスと同じくらいだが、ホイールベースはランボルギーニ・ミウラの水準に抑えられたままだ。同じくらいの「適切なサイズ」を持ちアメリカでよく売れている現行モデルとしては、ポルシェ911とMX-5・MIATA(マツダ・ロードスター)がある。専用設計スポーツカーを2400mm前後のホイールベースで作り続ける日独のクレイジーメーカーの後を追ったのだろうけど、トヨタとBMWがスープラ&Z4のホイールベースを大幅に縮めて北米市場に楔を打ち込もうとしている(2470mm)。
アメリカ人が好きなブランド
60年前の米英伊の自動車協業関係の名残りによって、アメリカ人ユーザーがMINIに好印象を持っていると思われる。60歳以上の日本人がフォルクスワーゲンにいつまでも好印象を持っているのと同じ構図だ。アメリカ人は義理堅い。太平洋戦争でアメリカと激闘を繰り広げたスバルや三菱に対しても特別な愛情があるようだ。スバルの北米シェアは80%に達している(もはやアメリカメーカーだろ!!)。
撤退させない
2005年にダイムラー=クライスラーとの関係を解消された三菱はフランスのPSAと新たに協業関係を結び倉敷でフランス車を作ったりしていたが、PSAとともに北米撤退を決断しようとしたところ、北米市場から「三菱行かないで!!」との声が殺到したらしい。アメリカのクルマを改造するTVショーなどでも「三菱はトップクラスに高品質」とのコメントがあるなどブランドイメージは高く、新型モデルの投入がなくても販売台数が確保されている。
なぜBMWミニは禁忌される!?
できることならば、北米でのMINI人気は「イシゴニスへの敬意」だ!!と断定してこの記事を終わりにしたかったけど、AJAJのオッサンライターの中には「BMCミニ」こそが崇高であり、2001年という区切りの年に発売された「BMWミニ」は邪道と言って憚らない原理主義者もいたりする。20年も経つというのに、日本のカーメディアはとBMWミニへの客観的な評価を避ける傾向にある。日本市場で最も人気がある輸入車であるというのに・・・。
国営の末路
「鉄の女」の時代の1980年頃からBMCの経営は不振を極めた。欧州の景気だけでなく自動車産業のパワーバランスの変化に国営企業が対応できないのは、まあ仕方のないことかもしれない。当時の米英伊の自動車産業を徹底的に追い込んていた急先鋒がHONDAだけども、貿易摩擦対応として1983年に北米現地生産を開始し、さらに同じ時期に英国工場を開設したりBMCの支援に回っている。
どちらのファンも悲鳴
HONDAの技術がそのまま投入されたローバーグループを1994年にBMWが買収。2000年まではそのままBMCミニが販売されたが、2001年にBMWグループが初めて開発したFFモデルとしてBMWミニが登場する。BMWファンもHONDAファンも目を背けたくなるような「祝福されない結婚」が行われ、有り体に言えば、HONDAシャシーにBMWエンジンが搭載された「望まれない子」が生まれる。HONDAエンジンにBMWシャシーならば「夢のコラボ」だったのかもしれない(今のビーエムにK20Cが搭載されたらバカ売れ!?)。
HONDAとBMWの時代は終了?
2000年頃はBMWのE46系3シリーズは時代の寵児だったし、ホンダNSXの開発者は「フェラーリは博物館行きだ・・・」と息巻いていたけども、不思議なものでBMWミニという不思議なクルマを生み出した直後からBMWもHONDAもやや調子が悪い。もちろんどちらも北米では大人気のブランドだ。メルセデス&レクサスという北米で誰もが認める「高級ブランド」に対峙する「スポーティブランド」で最初に名前が挙がるのがBMWとHONDAだ。
ホイールベースに宿る
HONDAにしてみれば慰謝料を請求したい事案かもしれないが、BMWもブランド力を低下させるくらいの「不義」を承知しつつも産み落としたBMWミニが、20年経過してHONDAシャシーがBMWグループの屋台骨を支える存在にまで成長した。あらゆる意味でそれを可能にしたのが「MINI」のブランドの持つ力なんだと思う。日本にも「ブランディング」を声高に叫ぶローカルブランドがある。ポルシェ911やMX-5・MIATAのように「作り手の哲学」「厳密なクルマ」「ユーザーが得るファントゥドライブ」が三位一体となったオカルト的なクルマ作りと、MINIの流転のブランディングは「継続性」という意味で差があるように思っていたが、イシゴニスの理念の元にポルシェやマツダのようなスピリッチュアルな存在なのかもしれない。
若い世代に伝わる!?
HONDAやBMWの熱烈なファンの立場に立てばBMWミニはとても受け入れられるものではないかもしれない。しかしBMWのFFモデルにまで広がっているHONDAシャシー車は、同じブランドのFR車よりもハンドリングが良いと感じる節もある。清水草一という変わり種のAJAJ会員もそんな趣旨のことを書いている。20年経ってみて、2001年の「世紀の合体」は行き詰まりを見せていた「高性能主義」の終焉を予言したものであったのかもしれない。30歳前後の人とクルマの話をするとかなりの確率でMINIが欲しいと言っている。誰もが予想しなかったBMWミニの成功は、AJAJのオッサンライターなど知らない幸せな若い世代の心を掴んだ「完全なるブランディング」だったようだ。
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